第64話 生産性を上げる伝え方とは?

 「和をもって、貴しとなす」

 これは、聖徳太子の十七条憲法に書かれている言葉です。和を重視する。すなわち、個人の利益よりも、集団の利益を重視する性質は、我が国の国民性を表しているとされています。

 高度経済成長期は、多くのサラリーマンが個人の利益を犠牲にして会社に協力したからこそ、なし得たという現実もあります。いつしか、日本人は、集団の利益のために行動するというのが常識となっています。

 このように、日本には集団主義の文化が根付いていると言われています。本当にそうなのでしょうか。

 「信頼」という観点から日本人とアメリカ人を比較した実験では、私たちの常識に反して、日本人の方が個人主義的な行動を取ったとされています。つまり、アメリカ人よりも、集団に対して非協力的な行動を取ったということです。

 この実験は、見ず知らずの他人を信頼できるか、それとも用心しなければならないかを調べたものです。逆に言えば、仲間うちから相互に見張られているようなムラ社会では、簡単によそ者を信頼できないということになります。

 個人主義だからこそ、認められたいという欲求も強いのではないでしょうか。集団主義の皮をかぶった個人主義なので、認められたいという欲求自体は、なかなか表に出てこないかもしれません。

 仕事で認められる、つまり、社員は自分の行動をほめられるとうれしいものです。例えば、結果をほめられるよりも、そこに至ったプロセスをほめられる方が、「見ていてくれる」と思えて、うれしさも倍増するでしょう。

 しかし、何の反応もないとなると、行動自体を止めてしまう可能性があります。例えば、昼休みの休憩時間は社内が不在になることから、弁当を持参した社員が自主的に電話番をしてくれるとしましょう。

 やがて、それが当たり前となってしまったときに、その社員は不信感を募らせることになります。すると、トラブルに発展してしまうことも考えられます。

 したがって、「見ている」ということを伝えることが大事です。伝える方法としては、ほめる、しかるなどが思い浮かびます。

 しかし、しかるよりは、ほめる方が、社員をやる気にさせるのではないでしょうか。例えば、営業がまったくできていない社員が、営業先を一つ開拓して上司からほめられたら、もっとがんばろうという気になりますよね。

 人は、成長することに喜びを感じるのだと思います。だから、成長したいと望んでいるハズです。

 このように考えると、上司がほめることは、仕事への動機づけとして有効です。

第63話 いい人を採るためには?

 「いい人を採りたい」

 このような思いは、すべての経営者に共通のものです。ところが、「いい人」かどうかは一緒に働いてみないと分からないものです。

 採用の時点でよく、「いい人を見極める方法を教えて欲しい」とのご要望をいただきます。しかし、採用の段階で、「いい人」かどうかを判断することは至難の業です。

 その時点で揃う情報というのは、履歴書、職歴書、面接などによる本人の申告くらいです。それだけでは、到底、判断できるものではありません。

 人間は、多面的でもあります。例えば、ご自身の配偶者やお子さんなど、長い間、一緒に暮らしている人たちであっても、新たな一面を発見して驚くことがあります。

 つまり、分かっているようで、分かっていないのです。言い換えれば、限られた情報の中で、人の見えない部分を知るということは難しいのです。

 求職者は、自分が値踏みされることを十分承知していますので、何とか面接を上手く切り抜けたいと思っていることでしょう。中には、顔の表情や、発する言葉から、何を考えているのか分かるという方がいらっしゃいます。たぶん、間違っていませんが、見極める技術を取得するのに多くの時間を割かなければならないでしょう。

 経営者に、そのような時間的余裕があるとは考えにくいものです。

 では、採用する側として、手の施しようがないのでしょうか。

 視点を変えることです。つまり、「いい人」ではなく、会社に「入れてはいけない人」に着目するのです。会社に入れてはいけない人とは、後々、解雇トラブルなど、甚大なトラブルを引き起こす人のことです。

 ポイントは、3つあります。一つ目は健康で働けること、二つ目は能力があること、三つ目はまじめに働けること、です。

 まず、健康でなければ、十分な成果を期待することはできません。採用においては、健康な人を雇うことが最大のポイントになります。したがって、病歴に注目します。

 次に、仕事をこなすための能力を見極めなければなりません。そこで、職歴に注目します。

 最後に、長く働いてもらう前提に立てば、まじめに働けるかどうかは特に重要になります。経営者としては、勤務態度が悪い人を役職者にしようとは考えていないハズです。なので、退職理由に注目します。

 このことから、面接時には「病歴」「職歴」「退職理由」を直接、求職者から聞くことです。会社として、仕事をしてもらううえで必要なことは直接、聞くべきです。

第62話 組織文化を根付かせるには?

 「社員が立派になって欲しい」

 経営者なら誰しも、このような思いがあるのではないでしょうか。立派になるためには、当然、勤務態度が良くなければなりません。

 仕事だけできれば他のことには多少、目をつぶるということがあるかもしれません。それでも、そのような人を管理職に据えることはないでしょう。

 例えば、遅刻魔を管理職へ登用するなんてことはあるでしょうか。仮に、そのような人を管理職にすれば、マネジメントにおいて様々な弊害が出てしまいます。一つ例を挙げると、部下が言うことを聞かなくなります。

 言うことを聞かなければ命令系統に支障が出ます。誰しも、遅刻魔に遅刻を注意されたくはないですよね。

 最初は、小さなほころびかもしれませんが、やがて組織全体の統制が取れなくなってしまうでしょう。このように考えると、勤務態度が良好でなければ昇進できないということになります。

 しかも、この勤務態度は、社長が考える勤務態度ということになります。なぜなら、社長の考える「立派な社員」を育むための重要な要素になるからです。つまり、勤務態度というのは、社長の価値観が最も反映されるところなのです。

 したがって、勤務態度において何を重視するかは、社長が決めなければなりません。いわゆる重みづけですね。何がどれくらい重要なのか、その順番を決めることになります。

 決めたら、それを示して浸透させることになります。示さなければ、社員もどのような勤務態度が会社に認められるかを知る術がありません。浸透させるには、例えば、具体的に実践できた人を取り上げて議論することでも良いでしょう。

 社内には、世代ごとに価値観や仕事感が異なる人たちが働いています。あるいは、組織が大きくなれば部門の壁と言われるものも存在します。これらを克服する必要があります。

 タテ、ヨコ、ナナメの関係を克服して、社長の考える勤務態度を会社の文化にしなければなりません。会社の文化として根付いてしまえば、守るのが当たり前のことになります。

 根付かせるためには、”できる人”の経験談を語ってもらい、それを題材に議論することも一法です。つまり、意図的に話題に上るようにするということです。タテ、ヨコ、ナナメの関係を克服する道具として、社員の声を取り入れた冊子の配布も有効です。

 社員の自己拡大を促すためには、社員を巻き込むことが重要です。

第61話 不正の芽を摘むためにすべきこととは?

 「覚せい剤所持でASKA容疑者を逮捕」

 連日、このニュースで持ち切りです。人気デュオの不正にショックを受けた方も多いのではないでしょうか。報道によると、最初はかたくなに否認しているとのことでしたが、最近になって一転して容疑を認める供述を始めたようです。

 今回の逮捕に至るまでに、週刊誌に覚せい剤使用の疑惑が報じられていました。それが、約1年前。

 仮に、覚せい剤を使用していたとしても、逮捕されるまでに使用を「止める」という選択肢もあったはずです。実際には、それができず、常習性を示す証拠が出ています。

 このような許しがたい不正は、会社の中でも起こる可能性があります。例えば、横領がそうです。

 横領しようとする人の立場で考えてみましょう。

 まず、なぜ横領しないといけないのか、多くの場合、他人に打ち明けられない悩みが原因のことが多いと考えられます。例えば、サラ金で借金をしているのを誰かに知られたくないから不正をしてでもお金が欲しいという状況です。

 次に、横領してもバレないだろうと思ってしまうことが考えられます。例えば、会社の金銭出納は自分が管理しているので、うまくやればバレることはないという考えです。

 最後に、横領は悪いことだけれども、この程度なら許されるだろうとの認識です。例えば、次の給与をもらったら返せるから、会社の金を一時的に借りるだけという言い訳です。

 この三つが、いわゆる「不正のトライアングル」という仮説です。説明した順に、「プレッシャー」「機会」「正当化」となります。これらの内で、会社が最もコントロールしやすいのが「機会」を奪うことです。

 つまり、「誰もチェックしないからバレないだろう」という気が起きないようにするのです。例えば、金銭出納の業務を一人で完結しないような仕組みにすることが考えられます。

 ASKA容疑者も、周りが口を割らなければバレないと思ったのかもしれません。家族なら大丈夫だと考えたのかもしれません。見かねた奥さんからの通報があったとされる報道もありました。

 もう一つ、大事なことがあります。それは、不正が必ずバレるものだと普段から教育することです。不正が発覚した後は、会社での未来が閉ざされてしまいます。

 それは、社員の成長の芽を摘んでしまうことに他なりません。会社にとっても、社員にとっても大きな損失です。

 大事な社員が犯罪に手を染めることがないようにしたいものです。

第60話 社員は上司に何を求めるのか?

 「理想の上司は半沢直樹」

 これは、産業能率大学が毎年発表している新入社員に聞いた理想の上司です。

 今年は、テレビドラマで主役を演じた堺雅人さんが、男性上司の1位でした。女性上司は、天海祐希さんで5年連続の1位です。この理想の上司像の移り変わりを追いかけた記事を見つけました。 http://goo.gl/O6bK1M

 それによると、経済情勢や世相に応じて、男性・女性ともそれぞれ3タイプに分かれるそうです。例えば、男性上司の場合で見てみましょう。

 ①就職氷河期は「低迷する組織を再生するリーダーシップ」があるタイプ、②いざなみ景気末期は「親近感」があるタイプ、③先行きが不透明になると「組織に依存しないスキルと自信」があるタイプ。

 ①は、野村克也さん、星野仙一さん、古田敦也さん、北野武さんで、いずれも組織を改革する手腕に長けた人たちでした。②は所ジョージさん、③はイチローさん、池上彰さん、橋下徹さん、そして堺雅人さんと続きます。

 ①のタイプの人たちは、厳しく指導して部下を伸ばすという印象がありますね。厳しい経済状況も相まって、厳しさや毒舌のキャラを求めたのでしょう。

 ところが、②は楽しく仕事をさせてくれそうなタイプですし、③は組織に依存せずに結果を出すタイプですから”あこがれ”の対象です。今の時代は③の延長と言えますが、同じ厳しい時代でも①とは理想の上司像が違っていて面白いですね。

 理想の上司像というのは、言い換えれば、彼らに仕事ぶりを「褒めてもらいたい」「しかってもらいたい」ことの表れです。つまり、理想の上司に自分を認めてもらいたいと思っているということです。

 これは、裏を返せば、現在の上司に「認められたい」という願望なのではないでしょうか。しかし、認めてもらっていないという現実があります。

 このような願望が満たされず、放っておかれると不満が募ります。不満がたまった状態で退職を迎えると、トラブルに発展する可能性が高くなってしまいます。

 「褒める」のも「叱る」のも上司の評価です。評価をするためには、仕事を目に見えるかたちにしなければなりません。どのようなときに、どのような評価をするか。それをオープンにして腹落ちした時に、社員の行動が変わります。

 「やらされている」退屈な仕事から、やりがいのある仕事へ。社員が自ら働き出す素地ができるのです。

第59話 秘密の流出を防ぐためには?

 「研究データが、うちに持ち込まれたようだ」

 この通報から東芝の半導体メモリーを巡るデータ漏えい事件が明らかになりました。漏えい先は、韓国のライバル企業。外国に盗まれる時代が来たということです。東芝に通報したのは、容疑者の男と同じ会社で働く日本人社員でした。

 当時、この会社は半導体メモリーで東芝と激しいシェア争いをしていました。そこへ営業秘密が持ち込まれたのです。東芝は、ライバル企業の技術が急激に向上したとかねてより不審に思っていたとコメントを残しています。

 ややもすれば秘密が漏れることにより競争優位性が損なわれることがあります。したがって、秘密を持ち出されないような自衛手段を講ずる必要があります。ところが、本人の頭の中にある情報まで持出しを防ぐことはできません。

 それでも、秘密保持の誓約書は交わしておくべきです。ただし、すべての社員に対して同じようにするというのではありません。地位や職務内容など、秘密に近い社員に対して誓約書を取ります。

 誓約書は、一般的に入社時に取るという認識があります。この場合の秘密の範囲は、広く浅い内容となっています。要するに、誰がどの程度、秘密にタッチするのか分からないからです。

 したがって、配転やプロジェクトへの参画により、秘密へ触れる機会ができれば、その都度、誓約書を交わすことになります。もちろん、その任から外れれば、その約束は見直されることになるでしょう。

 ですが、誓約書の内容は、約束として守らなければならないことを教えなければなりません。これが一番の防御法になります。

 ところが、退職時には、誓約書を取るのが最も難しくなります。退職時には、競業避止も含めた約束をしたいところですが、職業選択の自由も考えなければなりません。

 冒頭の事件のように、ライバル企業へ行ったほうが、それまでの経験が生かせるからです。逆に言うと、他の会社からの転入者を入れる場合は、不正競争防止法の情報を持っていないかを確認することが大事です。つまり、前職で負っていた秘密の保持義務や競業避止義務の内容を確認しなければならないということです。

 報道によると、事例のライバル企業に情報を流した容疑者は、処遇に不満があって、その腹いせにやったと供述しています。不満を残したまま退職するとトラブルになるリスクが高まります。

 社員の抱えている不満をチェックするということも必要ですね。

第58話 社員の不満の先にあるものとは?

 「残業代が支払われない」

 このような理由で、会社が訴えられる例が後を絶ちません。いわゆる未払残業代の請求と言われるものです。

 この場合、請求してくる人というのは、退職した方か、もしくは退職間際の方が殆どです。つまり、会社との関係が切れてしまった人からの請求が圧倒的に多いということになります。これは、取りも直さず、在職中は請求しづらいことを表しています。

 多くの社員は、「会社とお客さんのために働いている」という意識でしょう。残業代が支払われないからといって、会社やお客さんから頼られれば、おいそれと辞めるわけにもいきません。

 しかし、不満は確実に蓄積されていくのです。そして、退職を目の前にして、未払の残業代を取り戻そうと決意するのです。

 これを防ぐには、社員に不満を貯めさせないようにすることです。そのための施策は、いろいろ考えられますが、根本的には労働時間を削減しなければ解決しないでしょう。

 長時間労働は、精神健康を害することが広く知られています。なので、長時間労働が続いていると、それだけで労災リスクは高まります。

 例えば、労災を判断する際のストレス評価の程度を押し上げてしまいます。すると、労災になりやすくなってしまいます。労災と認定されるということは、会社に責任があると認められるのと同義です。

 そこで、労働時間を減らすには、年次有給休暇を利用するのも一法です。年次有給休暇は、法律で決められた社員の権利です。これを社員に使ってもらうことで、健康的な働き方ができるようになります。

 なぜなら、年次有給休暇を取った日の労働時間は、働いた実数にカウントされません。逆に、休日労働は、働いた実数にプラスされてしまいます。これが、労働安全衛生法に規定されている健康労働時間の考え方になります。

 これまでは、年次有給休暇は権利としてあっても使いにくいものでした。それは、配置人員によるところが大きいです。我が国では、雇用を保障するために実質上、解雇を不自由にしています。おいそれと解雇できないのは、そのためです。

 このことから、不況が来ても解雇しなくて済むように、本来の人数よりも少ない人数で仕事を回すようにしています。つまり、多くの会社では配置人員が不足している状態が適正配置なのです。

 例えば、10人でやるべき仕事を7人で回す職場だとしましょう。忙しい時は残業でカバーします。そこへ1人が年次有給休暇を取ろうとすると、そのシワ寄せが同僚にいってしまうことになります。この打開策として、計画的に利用させるようにします。

 今後は、年次有給休暇を活用して労働時間を削減し、社員の疲労とストレスを和らげるようにしなければなりません。そのためには、年次有給休暇を与えても良いと思えるくらいの仕事ぶりの人を選別して入れるということが大事です。

第57話 人材の流出を防ぐには?

 「新入社員がわずか10日で辞めてしまった」

 期待して入れた人が流出するほど、会社として残念なことはありません。このような流出を防ぐためには、どうしたら良いのでしょうか。

 それには、会社に残って欲しい社員像をピックアップしてみることです。例えば、その一つに、会社の価値観をよく理解していて、それに基づいた行動ができる社員があるでしょう。

 そうでなければ、会社のミッションを達成することができません。したがって、会社が打つべき施策として、経営理念を示すことが重要になります。

 「われわれは何者なのか。そして、どこへ行こうとしているのか。そのために何を大切にし、どのように行動するのか」。つまり、ミッション、ビジョン、価値観、行動様式といった会社自身の定義です。

 中でも、ビジョンを示すことは社長の仕事です。現在進行形で「将来、どこへ行こうとしているのか」を表現することになります。示された会社のビジョンと自身のキャリアがつながっていると社員が感じられることが大事です。

 社員は、自分が積み上げてきたキャリアが会社に必要とされていないと思えば辞めて行くでしょう。会社で自分のキャリアが上がって行く実感が持てないのですから当然ですよね。

 したがって、会社として残って欲しい社員を流出させないためにも、経営理念の浸透が喫緊の課題となります。逆に言えば、経営理念を浸透させることで、社員の能力を最大限に発揮させる土壌ができます。

 例えば、それは、会社に合った行動様式に変えるということです。会社に合った行動様式を取ることで、上司から褒められたり、同僚から賞賛されたりすれば社員の承認欲求が満たされます。誰もが「認められたい」という欲求を持っています。

 承認欲求が満たされれば、働きがいを感じることができるでしょう。つまり、会社が自分を必要としてくれていると実感できるようになります。働きがいを感じることで、責任感も芽生えてきます。

 すると、社員が自ら働き出すようになります。そして、10年後、20年後の自分のキャリアを思い浮かべることができるようになります。会社としては、このような善循環をつくるべきです。

 ローパフォーマーを社外へ転出することと併せて、会社に残って欲しい社員の流出防止を考えていかなければなりません。

第56話 社員が退職時に持ち出すものとは?

 「こんなことなら、退職前に教えてもらえばよかった」

 ベテランの社員が退職したことによって、技術等の知的資産が失われるということはままあるのではないでしょうか。

 例えば、職人技の溶接技術、経験に基づく調合法あるいは国家資格や免許だったりと、その人が持っている固有のものです。当然ながら、その人が退職すれば、その人とともに会社から無くなってしまいます。

 会社から無くなってしまえば、仕事に活用できなくなってしまいます。消えてしまった技術等で事業を差別化していたとしたら、それもできなくなってしまいます。

 悪くすれば、会社の経営が窮地に陥ってしまうでしょう。そうならないように、知的資産を次世代に承継できるようにしておくべきです。

 それには、まず、どんな知的資産があるかを把握しておくことが必要です。ただし、すべての知的資産が社員の退職によって影響を受けるものではありません。例えば、会社の文化、協力会社との関係、ブランドなどは、社員が退職したからといって失われるものではありません。

 社員の退職によって影響を受けるのは、知的資産の中でも人的資産です。これは、人に張り付いたもののことです。

 例えば、第一種電気工事士などの資格は属人的なものであり、会社に資格が与えられたのではありません。それは、会社の経費で資格を取った場合であっても、です。資格所持者がいなくなれば、会社としての仕事ができなくなってしまいます。つまり、営業停止ですね。

 資格なら、複数の社員に試験を受けさせれば、そのうちの何人かは合格できるかもしれません。ところが、職人技や人をまとめる等の能力で、同業他社と差別化を図っていた会社はどうでしょう。これらの能力は、一長一短で身につくものではありません。

 また、人はいつか去りゆくものです。とすれば、人的資産の承継を早目に計画することが大事になってきます。つまり、誰が、度の先輩の人的資産を引き継ぐのかを決めるべきなのです。

 まずは、社員の退職によって、何が失われてしまうのかを書き出してみることです。そのうえで、誰に、どのような方法で、どれだけの時間をかけて承継していくかを決めます。

 知的資産のバトンタッチを、どのようなタイミングで行うか検討してみましょう。事業承継をしなければならないものの中には、可視化しにくいものもあるのです。

 会社にとって大切な知的資産。失ってから慌てないようにしたいものです。

第55話 チャンスの与え方とは?

 「ああ、もうダメだ…」

 例えば、野球で9回裏ツーアウト、ランナーなしの場面、これで終わりかと目を伏せた瞬間、ホームランで逆転という場面を目の当たりにされたことがあるのではないでしょうか。

 贔屓のチームが逆転で勝利を掴んだ時、順風満帆な試合運びで勝つよりも胸のすく思いがしますよね。諦めなければ逆転はある。だから、面白いですよね。

 仮に逆転がなければ、負けたら負けっぱなしになってしまいます。これでは、救われませんね。

 人は、誰もが失敗するものです。例えば、スポーツは、最初から失敗することを前提にしていますよね。誰かがミスをしたら、いかにカバーするかが行動原理としてあります。

 仕事も、協働するということでは同じではないでしょうか。社員も、一度や二度の失敗にめげている場合ではありません。

 また、会社としても、数回の失敗で突き放してしまうというのはいただけません。なぜなら、会社には教育訂正機能があるからです。つまり、失敗を挽回するチャンスを与えなければなりません。

 ただし、何度も同じ過ちを繰り返すとなると、他の社員への影響も考慮する必要があるでしょう。影響が深刻な場合、会社としては契約の解消も視野に入れなければなりません。

 ところが、ローパフォーマーであったとしても、解雇は難しいのです。やはり、改善チャンスを与える必要があるのです。したがって、仕事を取り上げたり、窓際へ追いやったりするのはご法度です。

 ローパフォーマーに対しては、仕事を与えて、会社が徹底的に支援することが大事です。例えば、なぜ成果が上がらないのか、原因を明らかにして、どのように行動したら良いかを具体的に設定します。

 いつまでに、何をどのようにしなければならないか、期限を区切って提示するのです。その結果、これだけ会社が支援しても、改善できないという事実がなければ契約を解消することはできません。

 つまり、改善チャンスを与えたにもかかわらず、改善できないという状況が必要なのです。チャンスを与える程度は、企業規模、職務内容などによって変わってきます。ローパフォーマーであってもなくても、改善できるか否かは社員次第です。

 逆転できるかどうかは、その社員に掛かっているのです。

第54話 社長メディアの重要性とは?

 「不審者が来社して、社員と接触するのは困る」

 このようなご相談を受けたことがありました。お話をよく伺うと、不審者というのは元社員でした。この元社員が曲者です。この会社に入る前は、反社会的勢力とのかかわり合いがあった人物ということが分かったからです。

 もちろん、多くの社員は、その事実を知りません。このような状況で、元社員は、社長の留守を見計らって、たびたび社員と接触していたのです。社長は、これを止めさせたいのですが、元社員を刺激することで報復されることを恐れていたのです。

 確かに、反社会的勢力からの報復は怖いでしょう。しかし、そうであるならなおさら警察との連携を強化すべきだと考えます。連携を強めることが、社員を守ることにつながるのです。

 ここで大事なことは、会社としてのスタンスを打ち出すことではないでしょうか。つまり、反社会勢力を拒むということを社内外に宣言するということです。

 いわゆる、反社会勢力を「利用しない」「恐れない」「金を出さない」という態度を明確にするのです。社員が知らずに元社員と接触したとしても、会社は反社会的勢力とのかかわり合いを問われ、仕事を失ってしまう可能性もあります。

 前述のケースですと、元社員であろうと、反社会的勢力なのですから、社員に近づけないことが大事です。そのためには、社員に、元社員の正体、接触してきた場合の対処法などを伝えなければなりません。そうすることで、社員の行動も明確になります。

 例えば、元社員が会社の施設に立ち入ろうとした場合、社員はそれを阻止できるようになります。訪問者を入れる入れないは、会社が決めれば良いことです。家庭においても、セールスマンなどは断りますよね。それと同じです。

 阻止しても元社員が入って来ようとしたら、警告を発して、警察に通報する手順を教えておきましょう。元社員の素性が分かっていながら、接触を続ける社員がいれば懲戒することもできます。

 暴力団対策法や自治体の暴力団排除条例を後ろ盾に、会社が宣言することで社員からも頼りにされることでしょう。これを契機にして、社員との信頼関係を深めることができます。

 どのような時も、社長の発信力が問われます。したがって、社長が、自らの考え方を発信するメディアを持つことが大事なのです。

第53話 ローパフォーマー対策とは?

 「社員がミスばかりして困る」

 このような悩みを持たれる経営者は多くいらっしゃいます。いわゆる能力が低い社員がいることによって、少なからず仕事の割り振りや要員の確保に支障が出てしまうからです。

 さらに、職場を混乱させたり、困惑させたりするなど、他の社員の成果を阻害するするようになれば放っておくことはできません。むしろ、会社としては契約の解消を考えるべきでしょう。

 ところが、能力が低いことを理由に辞めさせるのは簡単ではありません。解雇には厳しい制約があるのです。また、懲戒の対象にもなりません。

 では、支障が出るから仕事を取り上げても良いのでしょうか。それもダメです。そのことが逆効果となり、「会社が足を引っ張ったから成果が出なかった」と言われてしまいます。

 会社には、改善するための機会を与えることが求められています。これは、労働契約が働く約束だからです。

 社員にチャンスを与えるということは、改善教育を通して徹底的に仕事を支援することなのです。その結果、改善できれば良いですし、そうでなければ社員の責任になります。

 具体的な改善教育は、まず、どこを改善するのかを特定することから始めてください。さらに、なぜ成果が出ないのか、その原因を明らかにします。それを踏まえて、新たな行動をどのように取れば良いかを具体的に設定するのです。

 ただし、その中身は「達成可能なもの」でなければなりません。そうでなければ、辞めさせることを前提に教育が行われたことになります。つまり、見せかけの改善教育と取られてしまいます。

 社員の意見を反映できれば、会社が一方的に押し付けたことにはなりません。重要なことは、これらを記録に残すことです。的確な改善教育を行うためにも、例えば「いつまでに何をしなければならないか」といったように、行動に結びつけられるようにすべきです。

 改善教育は、数か月行って、評価をし、改善できなければ、更に数か月行って再評価するというように複数回、実施することになります。複数回、行うことは、会社が教育に力を注いだ証になります。契約の解消は、それからでも遅くはありません。

 改善教育を行うことは、会社のリスクを減らし、生産性の回復につながるということを認識しましょう。

第52話 書面化されない約束とは?

 「裏切られた」

 会社と社員との関係で、このように感じることはままあることです。社員が、「裏切られた」と感じた場合、パフォーマンスが低下し、会社の生産性を下げたり、会社に対して敵対心を持ち、トラブルに発展することがあります。

 例えば、契約=約束が守られないという場面で「裏切り」を感じることがあります。契約は、今でこそ書類で交わすことが当たり前になっていますが、昭和の時代はそうではありませんでした。

 この時代は、特に契約書を交わすでもなく、終身雇用が保障されていました。終身雇用について、OECDが三種の神器と褒めそやしたことを覚えていらっしゃる方もみえるのではないでしょうか。

 このような背景から、社員にも長期に安定した雇用を保障されるという期待があったことになります。しかし、ここ数年、終身雇用が崩壊したと言われています。確かに、一つの会社で勤めあげるという意識は希薄になり、労働移動が当たり前のように行われるようになりました。

 また、正社員が減って、非正社員が3割を超えるようになりました。すると、暗黙の約束であった終身雇用が守られなくなっても、社員が「会社に裏切られた」とは感じられなくなったと言えるのでしょうか。

 これは、国の取り組みを見ると分かります。例えば、昨年4月の労働契約法の改正です。雇用を安定させるために、有期契約の非正社員に対し、無期契約への転換権が盛り込まれました。

 このことからも、社員が雇用の安定を望んでいることは間違いありません。加えて、会社が雇用を維持できない理由を、外部環境である経済情勢の変化にしやすいことも影響しているでしょう。

 社員に「裏切られた」と感じられないようにするためには、契約の明確化が欠かせません。もちろん、すべての契約を記載することはできませんし、将来を予測するにしても限界があります。つまり、契約は不完全なものであると言えます。

 しかし、契約内容が不明確で将来もわからないような状態ですと不安ばかりが募ることになります。すると、冒頭でお伝えしたように、生産性が下がったり、トラブルが起こってしまいます。

 なので、終身雇用のように、過去からの慣習による期待、すなわち書面化されない約束があることも理解したうえで、できる限り契約を明確化することになります。

 特に、従来までの約束が変わったとか、組織に変化が起こった場合には、社員に対し、新たな契約を提示することが必要です。そのためには、トップが社員に対してメッセージを発信できるメディアを持つことが重要になります。

 今、時代は約束を守る時代になったのです。

第51話 立場を作ることの重要性とは?

 「立場が人を育てる」

 このことを目の当たりにされたことがないでしょうか。あるいは、ご自分がこのような体験をされたことがあるかもしれません。立場が変わったときを境に見違えたということは、しばしばあります。

 例えば、主任へ昇格したとたん、責任や自信が出てきたという話はよく聞きます。一つには、会社から認められたから昇格したということがあるでしょう。また、役職に対する周りの”目”もあるでしょう。役職に対する周りからの承認と言い換えられるかもしれません。

 承認は、社員にやる気を起こさせるうえでプラスに働きます。このことは、ハーズバーグの二要因理論でも指摘されているとおりです。

 言い換えれば、「認められたい」という欲求が満たされることの証明にもなります。ただし、前述の例のように昇格という機会は、すべての社員に均等に訪れるものではありません。

 そこで、同じように周りから承認される工夫が必要になります。

 例えば、「教える」という立場は、周りの承認を得られやすいし、本人の承認欲求をも満たせるのではないでしょうか。教えるのは、部下でなくても同僚でも良いわけです。

 互いに教え合う環境を作ることで、承認され、感謝されるようになります。すると、全員が会社に貢献できることになるでしょう。この場合の良いところは、社員それぞれの力量に応じて貢献できることです。

 さらに、メンバーとしての帰属意識も高まります。つまり、「自分の会社」「自分の仕事」と思えるようになります。

 人に教えるという行為は、自分の専門分野を掘り下げなければ早晩できなくなってしまいます。要するに、自分の専門分野を伸ばすことに他なりません。このように、「教える」というのは、長所を伸展させるのにもってこいの行為だと考えます。長所を伸ばせば、短所が目立たなくなるだけでなく、周りから認められることで責任も自信も芽生えることになるでしょう。

 社員がオールラウンダーでなければならない理由はありません。社員に、自分の持っている知識や技術を「教える」という行為を通して、会社に貢献できることを理解させることです。

社員の立場を意図的に作ることも、会社の取り組みとして重要ですね。

第50話 非正規社員の責任感を醸成するには?

 「迫力があってよかったですね」

 先日、知人が所属するオーケストラの演奏会にご一緒した方の第一声です。この時期には、めずらしくベートヴェンの第九の演奏会でした。合唱付きでしたので、それはそれは迫力のあるものでした。

 オーケストラですから、様々な楽器が組織的に演奏します。その中にあっても、曲の途中で、特定の楽器の演奏者が主旋律を奏でるパートがあります。このときばかりは、演奏者にとっての”晴れ舞台”ですし、見せ場でもあります。

 つまり、演奏会に来ている人、みんなに注目されるわけです。ここで、ミスをすれば他の楽器と一緒に演奏しているときよりもはるかに目立ってしまいます。したがって、晴れの舞台に立つ前の練習にも力を入れることになります。また、ソロのパートだけではなく、全体の演奏で足を引っ張ってはいけないとも思うでしょう。

 これを仕事に生かせないでしょうか。

 よく問題になるのが非正規社員であるパートタイマー。例えば、デパートやスーパーなど、パートタイマーが基幹社員であるところは、それほど問題にはなりません。ところが、製造業など、正社員が基幹社員のところでは、パートタイマーに責任感がないと嘆く社長は多いものです。

 確かに、正社員の中のパートタイマーという位置づけでは、責任感も芽生えにくいことでしょう。そもそも、賃金が違いますから責任感を持てということの方が無謀なのかもしれません。

 しかし、前述したように、晴れの舞台、すなわち、みんなに見てもらう機会を作ることで責任感を醸成することができるようになります。例えば、「仕事に対するこだわり」「仕事をするうえで心掛けていること」「今後の仕事の目標」などを開示することです。この中で、創意工夫や失敗した経験から得られた教訓など、できる限りプラス面を出すことがポイントです。

 つまり、自分の仕事ぶりを第三者に対して「見える化」するということになります。当然、見てくれる人がいなければいけませんが、晴れ舞台の演出もしやすくなるでしょう。

 第三者に自分の仕事ぶりを見られるということは、良い評判を得られるかもしれませんし、その逆もあります。パートタイマーが、良い評判を得られるよう、自ら取り組むことで、会社全体の成果を押し上げます。会社がパートタイマーに対して、晴れの舞台を用意することは意義のあることです。

 今回、「第九」を聴きながら協働について考えさせられました。ところで、楽器に疎い私は、知人のソロパートがどこだか分かりませんでした。予め、教えてもらっておければ良かったですね。

第49話 社員の行動を改善するためにすべきこととは?

 「権利を主張する社員が増えて困った」

 先日、ご相談いただいた社長は、年次有給休暇を取得する社員が多くて頭を抱えていらっしゃいました。

 この会社では年次有給休暇の基準日が迫っていることもあって、それこそ使わなければ損とばかりに消化しているようです。年次有給休暇には、時効がありますからね。

 しかも、使っているのはパートタイムで働く社員ばかりとのこと。逆に、フルタイムで働く社員は、殆ど使っていません。このことがあってから、この二つの雇用形態で反目が続いています。同じ職場で働いていますから、この状況は仕事にも影響を及ぼします。

 ここで浮彫になったのは、フルタイマーは、少なくともパートタイマーよりも会社への忠誠心と責任感があるということでした。これは、ある意味、会社が責任感を植えつけてきたことが奏功したと言えます。

 逆にパートタイマーは、利己的で打算的な行動が目立ちました。こちらは、会社が積極的に働きかけを行ってこなかったツケが回ってきたということでしょう。

 誰しも、損得勘定が働くものです。しかし、会社は、できるだけ、そうならないようにコントロールしなければなりません。この事例の会社では、社員が皆、パートタイマーと同じ行動を取ったら機能不全に陥ってしまいます。

 そうならないためには、フルタイマーと同じように責任感を持てるようにしてやることが必要です。ただし、多くのパートタイマーは、金銭がモチベーションになっています。金銭は、てこ入れしたとしても、効果は長く続きませんし、会社も維持できないでしょう。

 そこで必要なのが、一人ひとりが「自分たちの会社だ」と思えることだったり、「自分がやった仕事だ」という満足感を得られるようにすることです。そのためには、パートタイマーであっても、自分で判断したり、決めたりする権限を下ろしてやることです。そのうえで、いかに貢献したかを上司や同僚が認めてやると、社員が自発的に行動できる土壌ができます。

 例えば、通販の会社で、どの社員が商品を梱包したのか、担当者の名前を出して顧客に分かるようにしています。これも、やりがいを感じられる方法の一つです。他にも、蕎麦屋がそば打ちを外部の目に触れさせるのは、評判が掛かっていますから責任感を育むことができるでしょう。

 このように、社員の行動は”会社の仕組みづくり”をすることで改善できるようになるのです。

第48話 なぜ社員目線が必要なのか?

 「企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である」

 これは、ドラッカーが『現代の経営』で述べている企業の目的です。どの会社も、顧客を創ることに力を注いでいます。特に、顧客が何を考えているのか、どんなことに関心があるのかという、顧客目線になることが大事です。

 このことは、どの経営者も分かっていて、日々実践しています。例えば、ブログを活用したり、ニュースレターを発行して、関係性をより深める取り組みをされているのではないでしょうか。

 このように、外部へ発信することは、売上にもつながることですから、実践しやすいのかもしれません。ところが、内へ向けて発信することは、外へ向けてのそれよりも、注力していないように感じます。

 つまり、社内へ向けて関係性を強化する取り組みが出来ていないように見受けられます。例えば、朝礼などで社員に向けて「売上目標を達成するようにがんばろう」と鼓舞することがあるでしょう。

 しかし、これでは会社目線の表現になってしまっています。つまり、社員は自分のこととして受け止めにくいということです。

 表現の仕方で、伝わり方が違ってきますから、結果も変わってくるでしょう。より心に響かせるためには、社員目線を失わないことが大事です。顧客に対する顧客目線は意識できても、社員に対して同じようにできている経営者は少ないです。

 何のために顧客目線で発信するのか。

 その答えの一つに、会社のファンになってもらう、商品を好きになってもらうということがあります。これは、社員に対しても同じです。決して社員に媚びへつらうということではありません。

 社員に社長のファンになってもらうこと、会社のファンになってもらうことが狙いなのです。つまり、社長の味方を増やすということです。社長の味方が増えるということは、社長の考え方を理解できる社員を増やすことにつながります。

 そうすれば、少々問題がある場合でも、大きなトラブルに発展しにくくなります。なので、社長は社内に向けて発信できるメディアを持つべきです。そのメディアから発信する時、常に社員目線を意識してください。

 社員が、自分のこととして捉えられるような表現に変換することです。人は、強制されることを嫌います。顧客を育てるのと同じように、社員を社長のファンに育てましょう。

第47話 仕事を見える化した時のメリットとは?

 「仕事が面白い」

 これは、若手社員の職業観を調査するに当たって、仕事を行ううえで大切だと思うことを尋ねた結果、1位(68.7%)となった答えです(一社日本経営協会『若手社会人就労意識ギャップ調査報告書2012』より)。

 同じ調査で、転職をしない理由を尋ねたところ、「仕事に面白みを感じるから」が2位(35.2%)でした。多くの社員は、1日の3分の1以上を会社で過ごすことになりますから、仕事に面白みを求めるのは当然のことです。

 このことから、転職をさせないためには「仕事の面白み」を社員に実感させることが有効であることが分かります。逆に言えば、放出したい社員には「仕事の面白み」を感じさせないようにするのが良いでしょう。

 確かに、何かに面白みを見出さなくては、つまらなく感じて、やりたくなくなってしまうでしょう。本田宗一郎も言っています。「やりたいことをやれ」と。そうして、給料のことばかりを考えている人を否定しています。

 しかし、仕事は、そうそう面白いものばかりではありません。中には、あまり工夫もせずに惰性でやってしまうこともあるでしょう。

 では、社員に「仕事が面白い」と感じてもらうには、どうしたら良いのでしょうか。例えば、自主的に仕事をすることで、やりがいが生まれ、仕事の面白みが分かるようになります。つまり、仕事に対し、どのように取り組むべきかを考えさせるのです。

 そのためには、仕事の中身を理解していなければなりません。多くの会社では、経験的に仕事を分かっていますが、誰が見ても分かるように言語化していません。

 いわゆる、「仕事の見える化」ですね。

 これには、仕事を分解する必要があります。前提として、職種毎に行います。そこから、一人前で任せられるレベルは何かを確認することになります。すると、仕事に要求される知識や技術のレベルが明確になります。

 今度は、難易度を確認することになります。例えば、図面を理解するためには、図面そのものではなく、計算方法まできちんと分かっていないとできない仕事もあります。つまり、その仕事の重みづけを考えるということです。

 すると、仕事の全体像と難易度が分かるようになります。仕事が決まれば、そこへ誰をあてがうか、といった適性も見極められるようになるでしょう。適材適所ですね。

 仕事の中身を言語化することによって、採用する時の説明がきちんとできるようになります。つまり、ミスマッチを減らせることなります。ぜひ、仕事の見える化をしてみてください。

第46話 労働時間をコントロールする必要性とは?

 「残業代がかさんで仕方ない」

 かといって、サービス残業をさせるわけには行きませんよね。このような悩みをお持ちの会社は、労働時間が適正に管理されているか見直してみることをお勧めします。

 管理がルーズだと、ムダな残業を放置してしまうことになってしまいます。例えば、「同僚が残っているので帰りづらい」とか「予定がないので仕事でもするか」など、残業をしなくてもいいのに残っている場合があります。

 残業は、本来の賃金にプラスして割増賃金が発生します。したがって、割増賃金に見合うだけの働きがないと会社はペイできません。

 本来、労働契約は限られた時間内に成果を出すという約束ですから、社員にもコスト意識は持っていてもらいたいものです。例えば、「自分の時間単金は、いくらだから、このくらいの成果を出さないといけないな」ということを意識するだけで違ってきます。

 もう一つ、残業は命令だという認識を持たせることが必要です。この認識があれば、「帰りづらいから」とか「取りあえず仕事をする」ということを防止できます。そもそも社員には、「働かせてくれ」という権利がないことを覚えておきましょう。

 このことを前提にすれば、残業を許可制にするのも一法です。これは、残業をするには、社員が事前に申告して上司の承認を得ることをルール化するということです。したがって、承認を得ずに行われた残業は、労働時間と認められないことになります。

 このように、残業を黙認せず、会社がコントロールできる体制づくりが必要です。そこで、許可制が運用できるようになれば、申告が実際の労働時間と合っているか、上司が適正に承認しているかの調査を行います。

 しかし、殆どの会社が、この調査を行っていません。申告上は、承認の体裁を取ってはいても実態が伴わない場合があります。すると、退職するときに未払残業を請求されてしまう原因になりかねません。したがって、定期的な調査が必要になります。

 現代は、労働時間を削減しなければ、どのような施策を打ってもムダだと言われています。それは、労働時間が多いと労災になりやすいことが分かっているからです。

 労災というのは、仕事中のケガや病気ですから、会社に責任があることになります。なお、労災には慰謝料が含まれていませんから、社員には民事訴訟を起こして慰謝料を請求する道が残されているのです。

 実際には、客先の都合もあって労働時間を削減することは難しいかもしれません。でも、会社の責任の重さを考えれば、あらゆる業種で労働時間を削減するための工夫が求められているのです。

第45話 課長のやるべき仕事とは?

 「会社全体のベクトルを合わせたい」

 経営者としては、社員に共通の目標や意識を持たせ、職場の一体感を醸成したいとの思いがあります。

 これを実現するためには、会社の経営理念をはっきり示す必要があります。つまり、「我々は何者で、どこへ行こうとしているのか、そのために何を大切にし、どのように行動するか」といった定義づけをしなければなりません。

 この定義を、組織としての本質を表しているか、他社との違いが区別できるか、持続性はあるのかの観点からチェックしてみましょう。会社としての方向性が決まれば、どのように浸透させるかがポイントになります。

 社員には、会社の方向性が意味するところを、自分たちの仕事や日常の行動に置き換えて考える機会を与えます。例えば、職場の最小ユニットである「課」全体で、時間を取って討論させる方法でもいいでしょう。

 この時、課長は、できる限り多くの部下たちに発言の機会を与えるよう促します。そうすることによって、見解の違いや、互いの仕事や役割の違いなどを認識できるようになります。

 また、共通ワードを共有することで、仲間意識が育まれます。このような機会を増やしていくことで、社員一人ひとりが「自分は、何をすべきか」「会社の価値観が理解できているか」を意識することになります。自分たちの仕事や役割の認識を共有化できれば、例えば相互応援もやりやすくなります。

 加えて、自分の目標の設定もやりやすくなるでしょう。例えば、上司のアドバイスを受けて、目標を自分で決めます。自ずと、やるべきことも決まってきます。そこで、実行に移すわけですが、この時のポイントはチェックのタイミングを自分で設定するということです。

 自分でコミットさせることが大事です。

 施策によっては、目標が達成できないこともあるでしょう。そのような記録も、すべて残すようにすると、無理な目標設定をしなくて済みます。このようにして、PDCAを回して行きます。

 一方で、課長ともなると「業務量が過大である」ことが最大の悩みでしょう。しかし、これを人材育成ができない言い訳にして欲しくはありません。言い訳にしているとすれば、部下を育てることへの関心が低いと言わざるを得ません。

 ひとつには、育ててもスグに結果が出ないということもあるかもしれません。それでも、繰り返すことの重要性を理解して、部下を導くことが大切です。

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