第84話 期待成果を示す理由とは?

 「あいつはダメだ」

 社長に詳しくお尋ねすると、社員のパフォーマンスが良くないとのことでした。

 具体的には、なんだかんだと言い訳をして、仕事をサボることが常態化しているのだそうです。例えば、通常は一人で10できる仕事を、手を抜いて8しかやりません。

 そこで、注意すると、「誰々が話しかけてきたのでできなかった」「同僚の代わりに電話の対応をしていてできなかった」などとできない理由を並べ立てるのだそう。これでは、「あいつはダメだ」と嘆く気持ちも分からないでもありません。

 でも、ちょっと待ってください。

 その社員は、何をしたら良いのか、どのような仕事をすると会社から認められるのかを理解していない可能性があります。つまり、会社が「どのような成果を期待しているのか」を明らかにしなかったことが、社員のパフォーマンスを落とす一因になっていることが考えられます。

 まずは、会社として、職種毎の期待成果を開示することが重要です。

 例えば、1時間に1.5の仕事ができれば8時間で12の仕事ができることになります。すると、通常が10なのですから、余分に2できるようになったわけです。このように、期待成果は数字で表せる指標にすべきです。そうすることで、先の例なら、どうすれば効率よく余分に2できるかを社員が考えるようになります。

 考えて、実行すれば結果は数字で明らかになります。目指す指標に届かなかった場合でも、結果に至るプロセスを検証することが大事です。逆に言えば、上司はプロセスを見て評価すべきです。

 結果が良かったというのは、プロセスも良かったハズです。逆に、結果が悪かったというのは、プロセスも悪かったのでしょう。結果とプロセスの因果関係に着目して、社員の評価をしてみましょう。

 プロセスを見るというのは、全体を見ることです。社員も、結果を褒められるより、プロセスを褒められる方が、一層うれしさを感じることでしょう。なぜなら、プロセスは細部まで見ないと褒めることができないからです。

 「ここまで見てくれていたんだ」。

 このように思わせられることができれば、社員は会社の期待に応えようします。つまり、社員の仕事への取り組む姿勢が変わるのです。社員に数字を意識させることが大事です。その数字を示すのは、経営者の仕事です。

 あなたは、社員に期待成果として、数字を示していますか?

第83話 社員が自ら働き出すためには?

 「今の管理体制ではできない」

 ある建設会社で、1か月毎の利益を工事の進捗状況に応じて把握できるかを尋ねたところ、ご担当の方から冒頭の発言がありました。

 これでは、社員の成長を確認することができません。社員の仕事ぶりによって、利益が出たのか、そうでないかをはっきりさせなければいけません。

 社員に利益の配分を約束することが、会社の業績アップにつながるのです。自ら働いて出た利益の内、会社が約束した分は各社員の給料に跳ね返ってくるのです。

 社員が、自らの可処分所得を増やすには、会社に利益を残すことが必要になります。そのことを社員自身が理解すれば、会社に利益を残すためには、どのようにしたら良いのかを自ずと考えることになります。考えることで、仕事を工夫するようになります。

 また、足を引っ張る社員を助けて、結果を出そうと取り組むようになります。あるいは、会社にとって弱い部分を見つけられるかもしれません。例えば、給与計算などの利益を生まない仕事を検証し、外注することで、その仕事に携わっていた社員を効率的に活用し、その結果、利益が出せるようになることもあるでしょう。

 なので、毎月、利益がどのくらい出ているのか、あるいは出ていないのかを把握することが大事なのです。

 利益が出ている方法があれば、それを社員全員で共有します。出ていなければ、それこそスグに手を打たなけば最終的に利益を圧迫してしまうでしょう。

 社長からすれば、毎年、必ず利益を出したいと思うでしょう。この思惑は、社員ががんばった分、自分の給料が増えることと合致するのではないでしょうか。

 確かに、建設会社ですから、期末の完成工事高によらなければ、利益は確定しないでしょう。しかし、利益の配分を期首に約束し、毎月どのくらいたまったのかを社員にオープンにすることが大事です。

 そうでなければ、儲けても、それは「社長の取り分が増えるだけ」と思われても仕方ないのです。あるいは、期末に「利益が出なかった」を知るのでは遅いのです。

 したがって、毎月、利益が出ているかどうかを知っておく必要があるのです。例えば、実行予算に照らして、利益が落ちていることを把握することで、それを挽回する手立てを社員が考えるようになります。利益を把握する工夫をしましょう。

 社員は何のために、あなたの会社に入社したのでしょうか?仕事を通して自分を成長させたいから、なのではないでしょうか。

 利益の配分を約束することで、社員が自ら働き出す仕組みができるのです。

第82話 業績が上がる人事制度とは?

 「人事制度はあるけれど使えない」

 残念ながら、このような企業が多いのも事実です。これでは、何のために導入したのか分かりません。

 人事制度の第一の目的は、業績を伸ばすことにあるハズです。ところが、人事制度を入れたても業績が上がっていないという現実があります。その前に、冒頭のように運用がストップしているケースの方が多いのかもしれません。

これでは、入れた意味がありません。

 運用が止まってしまうケースでは、運用するのが「難しい」という理由が考えられます。その結果、「我が社には、人事制度の導入はまだ早かった」といった思い込みをするようになります。これは、間違っています。

 人事制度は、コンサルタントなど外部の人が作るものではありません。初めから、社長の頭の中にあるのです。そうでなければ、会社はとっくに潰れています。

 社長の頭の中にある評価基準に従えば、その会社に合った人事制度が出来上がるのです。それを、一般的なセオリーどおり、執務態度やマインドを決めて、能力を出せるようにし、成果が出るという順序でやると失敗します。時間が掛かりすぎて、状況が変化し、成果が出せません。

 では、どのように構築したら良いのでしょうか?

 先ほどの逆張りで考えてみましょう。まず、何が成果となるかを決めてください。すると、具体的にやらなければならない業務が決まってきます。これをやると必ず成果が出るという業務のことです。

 次に、この業務がやれているかどうかを見ます。やれば成果がでる業務ですから、それを真似るとある程度はできるようになります。

 しかし、真似には限界があります。そこで、能力を高めて、真似からの脱却を図ります。

 このように、逆のアプローチを取ります。つまり、大義名分から始めるのではなく、成果からスタートするようにします。こうすることで、成果がでれば、それを賃金に結び付けることができるようになります。

 成果が出ても、賃金に反映されなければ、やる気は失せてしまうでしょう。逆に、賃金に跳ね返れば、会社に対する信頼感は増すことになります。

 やれば自分の賃金が上がるということを体感させることが大事です。そのためのツールが人事制度です。

 「会社の業績を上げる」よりも「自分の賃金を上げる」の方が、社員は自ら働き出すようになるのです。人事制度を使って、実際に賃金が上がることを身を持って教えることで、結果的に会社の業績アップが可能になります。

第81話 タイミングだ重要なわけとは?

 「私の実力なら、もっと昇給してもいいはずだ」

 昇給を伝える面接の時に、社員からこのように告げられた社長がいらっしゃいます。社長は、非常に憤ってみえました。

 この社員は、パートタイマーの中でも優秀な部類に入ります。だから、自分が中心となって仕事が回っているという自負もあったのでしょう。

 しかも、やっている仕事は、正社員とほぼ同じです。家庭の事情などで、単に勤務時間が短いという感じです。ただし、クレーム処理など矢面に立つような仕事やマネジメントはしていません。

 このように、社長と社員、双方の考え方に隔たりがあると、その後の仕事に支障が出てしまいます。この場合、どのようにすれば回避できたのでしょうか?

 重要なのは、仕事ができること、あるいはできるようになったことと昇給とは別の話だということです。つまり、切り離さなければいけません。

 なので、社長は、昇給時に金額の話しかしないようにします。例えば、「この数か月間で○○や△△の仕事ができるようになったね」と褒めておいて、昇給が数十円とかだったとしましょう。社員からすれば、「何なんだ」となってしまいます。

 あるいは、褒めるだけ褒めて「今回は昇給ありません」と言われたらどうでしょう。パートタイマーなので、一気にモチベーションが下がってしまいます。これでは、うまくありませんね。

 したがって、褒めることと、昇給のことは、話す時を変えなければなりません。要するに、話すタイミングを間違ってはいけないということです。

 たとえパートタイマーであっても、会社の業績に連動して昇給しなければなりません。そのように考えると、会社の業績、仕事の進捗度合い等を勘案した結果の昇給であることをビジネスライクに伝えることが大事です。

 加えて、いくら優秀なパートタイマーであっても、無尽蔵に昇給できるわけではありませんから昇給の上限も決めておく必要があります。

 そして、どんな仕事ができるようになると上限に近づけるかも開示しておく必要があります。そうでないと、社員は、どのようにスキルアップしたら良いのか分かりません。

 だから、仕事の中身を可視化することが大事なのです。可視化して行動しやすくし、結果がでれば、それを褒める。その結果、社員がスキルアップし、会社の業績が向上するという善循環ができるのです。

 あなたは、社員を褒めることと、昇給のことを話すタイミングを間違ってしまって、社員のやる気を削いでいませんか?褒めることと昇給は、別の話だと割り切ってみましょう。

第80話 燃える集団の作り方とは?

 「売上目標を達成するために頑張ろう」

 朝礼などで、社員に対して、このような言葉を発している経営者は多いのではないでしょうか。しかし、どれほどの社員が自分自身のこととして受け止められるのかは疑問が残るところです。

 たぶん。殆どの社員に刺さらないでしょう。

 なぜなら、社員目線での発言ではないからです。あくまでも「会社の」売上目標を達成しようと言っているのであって、これでは社員のメリットが伝わりにくくなっています。

 間接的には、会社の売上目標をクリアすれば売上が上がった分、社員への配分が増えるかもしれません。ところが、その辺りが明確になっていません。社員にとってみれば、本当に配分されるのかどうかも分かりません。それは、約束されていないからです。

 売上が上がったら、会社はその利益を借金の返済に充てるつもりなのかもしれません。それは、それで問題はありません。でも、社員が自ら働こうという気持ちにはならないでしょう。

 大事なのは、社員のメリットを伝えることです。なぜ、会社の売上を上げなければならないのか。それは、社員の給料を上げるためなのです。

 会社は、商品なりサービスなりを提供した結果、売上を得ることができます。売上を上げた結果、その粗利から人件費が配分され、給料として支払われるのです。社員には、このことを理解させなければなりません。

 社員の給料を唯一増やす方法が、会社の売上を上げることなのだと教えるのです。会社と自分の給与の関係性が分かれば、社員も売上を上げるために頑張ろうという気になるでしょう。

 そのうえで約束すべきです。粗利の何割は給料へ配分するということを。

 その約束を守るべき、月々の売上や粗利などを社員にオープンにするのです。会社の金の流れを可視化することによって、「今月は○○が足らないから、もう少し頑張ろう」などと具体的にやるべきことが分かるようになります。すると、社員も行動しやすくなります。

 会社が社員へ要求することは、「売上への貢献」であることには変わりありません。同じ意味の言葉を発するにしても、社員には自分のことだと思わせる工夫が大事なのです。

 燃える集団は、伝え方を変えるだけで作ることができるのです。あなたは、そのような伝え方を実践されていますか?

第79話 どうすれば信頼できるのか?

 「信用していたのに裏切られた」

 社員の行動に対して、このような思いに駆られたことはないでしょうか。だからと言って、金輪際、社員を信用しないことができるのでしょうか。それは、恐らく無理でしょう。

 人が、一人でできることには限りがあります。互いに協力しなければ、成し遂げられないことの方が多いのです。

 例えば、給与計算を社長がやっている会社があるとします。会社の規模が小さいうちはそれでも良いでしょう。しかし、いつまでも社長が給与計算をしている会社は大きくなりません。

 いつかは、社員に渡すなり、アウトソーシングするなりしなければなりません。その時には、社長の手を離れるわけですから、相手を信じなければできませんよね。

 過去に、社員に裏切られたことがあるからと言って、いつまでも社長が抱えていれば会社は発展しないでしょう。とはいえ、誰彼かまわず信用するというのも考えものですよね。

 事前に、信用していい相手と、そうでない相手が分かれば苦労は要りません。そんなうまい方法があるのでしょうか。

 ゲーム理論の「囚人のジレンマ」での実験があります。それによると、「渡る世間に鬼はない」と考える高信頼者と、「人を見たら泥棒と思え」と考える低信頼者では、前者の方が相手の出方を正確に予測していました。

 これは、単に高信頼者が、誰でも信用してしまうお人好しではないことを示しています。つまり、高信頼者は、観察力が鋭く、修正能力も高いのです。

 これに対して、低信頼者は、そもそも相手のことを信用していないところからスタートしますので、「おかしいな」と思ってもあまり評価を変えようとはしませんでした。高信頼者は、観察していて「おかしいな」と思ったら柔軟に評価を変えることができたのです。

 このことから、裏切られるであろうリスクはありますが、まずは相手と協力しようという姿勢こそが大切なことが分かります。

 そこには、多少の失敗もあるでしょう。しかし、社員との関係を前向きに捉えるなら、少々の失敗は気にせずに、社員との協力関係を構築する方が、良い結果をもたらすのではないでしょうか。

 まずは、社員を信用してみましょう。それが、信頼できるかどうかをうまく見極められるようになる第一歩です。

第78話 マネジメントするとは?

 「会社から一歩外に出たら何をしているのか分からない」

 営業マンに関しては、とかくこのような認識をお持ちの経営者が多いものです。あるいは、「営業マンにすべて任せてある」とおっしゃる方もいらっしゃいます。裏返せば、全く管理できていないと言っているのと同じことです。

 これでは、営業マンに対して、指導や助言をすることはできません。当然、労働時間を管理することなどできるはずがありません。

 労働時間を管理しないことの弊害は、いくつもありますが、会社へのリスクが最も高いのが未払残業代の問題です。賃金の時効は2年ですから、問題が発生しているとすればその期間は遡及される可能性があります。

 また、未払賃金を裁判所で争うことになれば、付加金の問題も発生してきます。付加金とは、未払賃金のほかに、裁判所がこれと同一額の支払いを命ずることができる、一種のペナルティです。

 例えば、200万円の未払賃金であれば、付加金も200万円請求できることになりますから、会社は大きなダメージを受けることになります。こうしたトラブルが起こると、経営者の仕事が止まってしてしまいますから、経営に及ぼす影響はかなり大きくなるのが現実です。

 実際に、決算3か月前に起こったトラブルにより、経常利益が3%以上、下がってしまった会社がありました。このような事態を避けるためにも、仕事を管理することは重要なのです。

 例えば、営業マンが、どのような1日を過ごしているのかを知らなければなりません。A社に何時に行って、何をして、何時にB社に移動したという記録を分析するのです。

 すると、どのような活動をすると、お客様から仕事をいただけるのかが分かるようになります。営業マンの中には、売上を多く上げている人もいるでしょう。

 その売上は、営業プロセスが良いという理由なのか、あるいはお客様が良いという理由なのかを知ることから始めます。仮に、営業プロセスが良いという理由で売上を伸ばしているなら、その人のやり方を営業マン全員で共有します。これだけでも売上アップにつながります。

 営業マンの仕事を管理することで、経営者が営業マンの活動をコントロールできるようになります。すると、時間外で会社に残っている営業マンに対して、「早く帰りなさい」としか言えなかった経営者の発言が変わります。「この仕事は、明日でいい」とか、「この仕事は、しなくていい」と言えるようになるのです。

 営業マンが何をするべきか、分かっているからこそできることなのです。

第77話 なぜ、人事制度は止まってしまうのか?

 「人事制度の運用が止まってしまう」

 人事制度を導入した会社から、このようなご相談をよく受けます。

 なぜ、膨大な時間と経費を使って作った人事制度が使えなくなってしまうのでしょうか。一つには、人事制度を導入してもスグに業績が上がらないことがあります。要するに、時間ばかり掛かって成果がでないということです。

 これは人事制度が、仕事をするための基本姿勢、例えば、執務態度をまず身に付けることからスタートすることによります。つまり、成果よりも、制度ありきの考え方が成果を阻害しているのです。

 ここに気づかなければ、どんな立派な人事制度を作っても運用はできないでしょう。

 逆に言えば、成果に注目するということになります。成果とは何かを定義づけることから始めます。言い換えれば、会社がどのような成果を期待するのかを明確にするのです。

 そして、何をすれば成果が上がるのかを突き止める必要があります。これが特定できれば、成果を出せるようになります。つまり、因果関係をはっきりさせるということです。

 因果関係というのは、例えば、健康診断の結果がメタボだった人は、自分が食べ過ぎたことが原因で太ったというように、結果と原因につながりがあることを言います。

 その他、運用が止まってしまう理由として、コンサルタントが作った人事制度の場合が考えられます。つまり、会社に合っていない人事制度を導入してしまう場合です。

 会社に合った人事制度というのは、既に会社に存在しているのです。でなければ、とっくにその会社は潰れていることでしょう。

 このことを無視して、コンサルタントが薦める人事制度が上手く運用できるハズがありません。ところが、上手く運用できないのは、会社がその制度に合わせられなかったと思いがちです。

 そうではありません。アプローチが間違っているのです。

 コンサルタントが押し付けた人事制度や、他の会社を真似て作った人事制度は、その会社に合うハズがないのです。人事制度を長く運用するには、成果から考えて、どのような行動を取るべきか徹底的に洗い出すことから始めましょう。

 そして、その行動が取れるように、能力を磨いていくことが必要です。つまり、人事制度は、「成果」から逆張りで考えて作ることで、業績を上げることができるようになります。

 作る順番を間違えると使えない人事制度だけが残ることになってしまいます。

第76話 なぜ人事制度が必要なのか?

 「中途採用で入ってきた人が、決められたやり方を守ってくれない」

 このような話は、よくあります。

 仕事に慣れた頃から、自分のやり方を押し通そうとする人がいます。例えば、「前の会社では、そのようなことは言われなかった」と主張して我流を通すといったことです。

 このようなことが積み重なると、職場の規律が保てなくなってしまいます。また、同じような社員が、何人も出てくると収拾がつかなくなるでしょう。

 これを回避するためには、採用時に能力や執務態度などの基準をきちんと説明することです。採用面接では、誰しも入社したい一心で、過大な申告をすることがあります。決して嘘をついている訳ではありませんが、会社が期待する内容とかい離していることがままあります。

 悪いことに、その話を基準に賃金を決めてしまったりします。当然、能力と賃金とのかい離が大きければ大きいほど会社の損失は増大します。これでは、人を入れた意味がありませんよね。

 そこで、人事制度が重要になるのです。

 中途採用の場合は、本人の申告に合わせた賃金設定を仮評価とし、実際の働き方をみて再評価できるようします。再評価したら、その内容を社員にフィードバックしてください。

 社員は、会社の期待と本人のパフォーマンンスにどのような差異があるかを知ることができます。改善点が明確になれば、努力のしがいもあるというものです。

 例えば、再評価の結果、賃金が下がったとしても、次以降の評価で取り戻すことは可能なのです。これには、職種毎、階層毎に、例えば、どのような知識や能力が必要か、どのような考え方が必要か、対人関係はどうあるべきかなどが決められていないといけません。

 いわば、会社で認めらるためには、どのように行動して良いかが分かるようになっていなければなりません。

 我々は、誰かに認められたいという承認欲求を持っています。承認欲求を満たすには、結果だけでなく、プロセスもきちんと見る必要があります。

 なぜなら、プロセスまで見ないと適切なフィードバックはできないからです。言い換えれば、結果よりもプロセスを評価された方が、社員としては「そこまで見てくれたのか」とうれしく感じるのです。

 評価とフィードバックを行う時期は、なるべく短い間隔で行うのが良いでしょう。できれば、1年に4回行うのが望ましいかたちです。

 人事制度を正しく活用すれば、生産性は上がります。ぜひ、取り組んでみてください。

第75話:なぜ公開することが必要なのか?

 「あまり教えたくない」

 社員の処遇に関して、このようなお考えの経営者は少なくないのではないでしょうか。つまり、多くの会社で、賃金や賞与の仕組みは社員に発表されていないのです。

 これでは、結果的に会社が損をしてしまいます。なぜなら、社員は自分がどのように行動すれば評価が上がって、結果的に賃金や賞与が上がるのか分からないからです。

 要するに、会社の求めていることが分からないのです。このような状態で、成果を上げろという方が無理なのです。

 もちろん、上司から「ああしろ」「こうしろ」とは言われるでしょう。しかし、その通りに行動したとしても賃金や賞与に反映されなければ、やる気は失せてしまいます。

 入社した時に社長から「期待しているよ」と声を掛けられたとしても、どのように行動すれば良いか分からなければ魔法はいっぺんに解けてしまうでしょう。これでは、会社の業績を上げることはできません。したがって、社員の処遇は、ガラス張りにすべきです。

 会社は、社員にどのような行動を期待し、どのような処遇をするのかを明確にしておくことが必要です。冒頭の「あまり教えたくない」という経営者の言葉の裏には、社員に対して上手く説明できないというジレンマもあるでしょう。

 であれば、説明できるように、評価の仕組みを作ることです。社員の賃金や賞与は、評価に連動していることを教えるのです。

 つまり、賃金や賞与が何に対して支払われるかを明確にしておくのです。これにより、社員はどのような行動を会社が求めているか知ることになります。

 特に若手の社員には、自分の賃金や賞与がどのように上がっていくのか、道筋を見せることが大事です。彼らが、会社の歴史を創っていくのです。

 いつまでも上がらない賃金、どうすれば増えるのか分からない賞与。これでは、惰性で働くことを助長しているだけです。

 働くことの対価である賃金や賞与を増やす術を知ることは、社員が生活設計をするうえでも大切なことなのです。社員は、まさに賃金や賞与で生活をしていかなければなりません。

 社員は、賃金や賞与に大きな関心を寄せているのです。がんばる者がバカを見ない仕組みづくりが必要です。

 その仕組みを公開することで、業績を向上させる礎ができるのです。

第74話 なぜ人事制度は社長の右腕になるのか?

 「社員が思うように動いてくれない」

 こう言って嘆く方がいらっしゃいます。この場合、社員の劇的な変化を期待していることが多いように感じます。しかし、それは無理です。

 他人は変えられません。自らコントロールできるのは、自分だけです。

 例えば、ご自分がダイエットする時のことを考えてみましょう。ダイエットをしようと思えば、自分で食事制限をするとか、自分で運動をしますよね。その結果、自分の身体に変化が起きます。

 ダイエットが成功するかどうかは、自分に掛かっています。あなたが運動をしたことによって、あなたの配偶者が痩せることなどありません。あるいは、あなたが運動を止めたことによって、あなたの配偶者がリバウンドすることもないわけです。

 これを因果関係と言います。

 人は、誰でも自己中心的であり、自尊心があります。したがって、いつも自分の考えや行動が正しいと思っています。

 それなのに、他人から「変われ」と言われて、変わるものではありません。一時的には、変われるかもしれませんが持続できません。

 社員の行動を変えようと思えば、まず自分が変わらなくてはいけないのです。社員が自動的に変化することなどないのです。この認識を持つことからはじめてください。

 多くの場合、社員との接し方を変えることになるでしょう。例えば、頭ごなしに叱るのではなく、社員の話にも耳を傾けるようにします。この態度を継続すれば、社員もあなたの変化に気づくことができます。すると、あなたとの認識のズレも明確になりますから、そこをどのように埋めていくかを話し合うことができるようになります。

 このように、あなたが変わることで、社員の自尊心を保ちながら、社員が変化するための土壌ができるのです。これが、社員と上司との信頼関係です。このことは、お客様との関係においても重要ですよね。

 このような土壌ができていればこそ、社員はどのような成果を上げると自分が成長できるのか、責任のある仕事を任せてもらえるのかを受け入れやすくなるというものです。

 自分がどのようにがんばれば会社に認めてもらえるのか分かるようになります。具体的な課題や修正点がわかれば、社員は自ら修正する力を発揮できるというものです。

 この点で、役に立つのが人事制度なのです。だからこそ、人事制度は社長の右腕となり得るのです。

第73話 やる気にさせる工夫とは?

 「褒めたらいいのか、叱ったらいいのか」

 部下をどのように導いたらよいのか、わからないといったご質問を受けることがあります。そんな時、どちらでも良いと答えています。それに、二者択一で論ずるものでもないと考えています。つまり、褒める、叱るを状況に応じて使い分けることが大事なのです。

 会社は上司に対して、部下をより成長させることに期待しています。なので、その人なりに部下を指導しやすいと思う方法を採れば良いのです。指導した結果、部下が伸びなければ指導の方法が悪いということになります。

 少なくとも部下は、入社した時点で、がんばろうという気持ちがあるでしょう。であれば、部下には可能性があると言えます。ただ、仕事の習熟速度に速い、遅いがあるだけです。

 このことを理解せずに指導していると、部下の仕事に対する興味をなくさせてしまうことになりかねません。つまり、上司が部下をダメにしているのです。

 元来、仕事は楽しくあるべきです。ならば、部下にも仕事が楽しいと思わせることが肝心です。それには、部下の成功体験を増やすことが有効です。それも、ささやかな成功体験で良いのです。

 仕事のハードルをいかに越させるか、そこに工夫が必要になります。この場合、ハードルをクリアできたら、褒めてあげるといいでしょう。「○○ができるようになったね」という自身の成長レベルがわかると、やる気になります。

 つまり、どのように成長しているかが、部下に伝わるということです。それには、任せられている仕事に何が求められているのか、理解させる必要があります。

 「今、君はこのレベルだよ。もう少しがんばると次のレベルに行けるよ」。部下からすれば、自分の成長度合いが見てとれることになります。仕事の成功体験と可視化ができれば、もっと上を目指そうという気にもなります。

 仕事ができるようになったら、より短い時間でこなせるように仕向けます。長時間かけて仕事をするよりも、短時間でやり切ることに挑戦させます。すると、さらに時間を短縮することができるようになります。これを繰り返せば、生産性の向上にも役立ちます。

 部下を伸ばすことが、上司の評価を決すると言っても過言ではありません。上手くいく方法を教えて、できるようにすることで、部下が成長のスパイラルへ入っていけるようになります。

 そのためには、まず部下と仲良くなることが必要です。密なコミュニケーションが取れてこそ、部下を成長に導けるのです。

 あなたは部下と、どのようなコミュニケーションを取っていますか?

第72話 時代に合った秘密管理とは?

 「スマートフォンは、便利でいいね」

 確かに、スマートフォンがあると、出先でメールを確認したり、ファイルを見たり、サイトで調べものをしたりするのに便利です。一方で、盗難、紛失、ウイルス感染といったリスクが高まることも否定できません。

 昨今では、会社が社員個人のスマートフォンを仕事に使用することを許可するケース(BYOD)が増えています。これは、会社への持ち込みを禁止できないほどスマートフォンの所有者が増えたことも一因です。

 BYODを導入することによって、会社はコスト削減ができるし、社員は2台持ちをしなくても良いというメリットがあります。もちろん、仕事で使うのですから、会社が通信費の一部を負担することはあります。それでも、会社が自ら所有して貸与するよりも安上がりとなります。

 しかし、良いことばかりではありません。

 冒頭で述べたように、秘密漏えいのリスクがつきまとうのです。つまり、会社の情報管理責任が問われることとなり、損害賠償を求められる可能性があることになります。

 小型で持ちやすいから、外出する機会の多い社員にとっては重宝するのです。小さいからこそ、誰にも知られずにデータを抜きとったり、盗聴器になったりしてしまいます。

 ベネッセの個人情報流出事件もスマートフォンを使って情報を持ち出したことは記憶に新しいと思います。このような事件を起こさないためにも、事前の対策が必要です。

 例えば、秘密保持の誓約書を社員から提出させることも有効です。特に退職時の誓約書が大事になってきます。なぜなら、スマートフォンの利便性から、会社の情報を記録して持ち歩いていることが多いからです。したがって、退職時に、記録されている情報を消去させ、書面でも、それを誓約させることになります。

 また、BYODの対象者、対象機器または対象範囲を限定することも有効です。会社として、管理ができるように許可制にすることが大事です。誰にでも許可するのはマズいです。

 機器には、パスワードロックをかけさせたり、第三者から画面をのぞき見されないようにシールを貼ったりするなどの対策を施すべきです。加えて、紛失等した場合には、遠隔操作で使用不能にできるような対策も必要になります。

 社員を犯罪者にしないためにも、事前の対策や社内規程の整備が求められています。あなたの会社では、どのような対策をとっていますか?

第71話 なぜ多能工が必要なのか?

 「何でもできる人に決まっているさ」

 これは、どんな人を管理職に登用するかをお尋ねしたときに返ってきた答えです。殆どの経営者の方が、このようなお考えをお持ちのようです。それは、当然ですよね。

 会社に一部門しかないというのは、ほぼありません。例えば、製造業なら、製造部門はもちろん、営業部門だってあるのが普通です。

 このような場合、営業部門の経験しかない人に管理職を任せるとどうなるのでしょう。自分のいる部門のことしか考えられなくなってしまうことが、容易に想像できるのではないでしょうか。

 もちろん、立場もありますから、自分の部門を優先に考えることは必要でしょう。しかし、弊害の方が大きく、例えば、製造部門と営業部門の仲が悪くなってしまいます。つまり、同じ会社でありながら、協力できないということになってしまいます。すると、将来の業績にも響いてくるのではないでしょうか。

 このことからも、会社のすべてのセクションを経験することが大事なのです。

 例えば、オーケストラの指揮者は何も楽器を演奏できなくても務まるのだそうです。ところが、それでは人心を掌握することができません。掌握できなければ、オーケストラが指揮者の思いどおりに機能しなくなってしまいます。

 ある指揮者の方は、指揮者であっても一つは演奏者として負けない楽器を持つべきだと主張されていました。それは、楽器を取得する難しさが分からないと、演奏者の気持ちが分からないからなのだそうです。

 管理職も同じです。いろんな仕事を経験していないと部下の気持ちが分かりません。また、他の部門の人の気持ちが理解できません。その結果、独り善がりの判断に終始するのです。

 だから、何でもできる人がいいのです。特に中小企業であれば、部門も少ないでしょうから、すべてこなせる方が優秀なのです。

 ところが、実際の人事は、そのようになっていません。営業で入ったら、営業畑でずっと仕事をして、営業部長になるケースが圧倒的に多いのです。

 これは、採用に問題があるからです。採用時に職種を限定するから、このような問題が起きるのです。

 一つの解決策としては、中途採用を中止して、新卒採用に切り替えるという方法があります。ただし、中途採用と新卒採用とでは、手法がまったく異なりますので、相当期間の準備が必要になってきます。

 もう一つの解決策としては、職種限定を外したかたちで労働契約を結び直す方法です。この場合、基礎的な知識や技能をクリアさせることによって仕事の経験を積ませます。

 その結果、人の気持ちが分かる管理職になれるのです。なので、中小企業において、優秀な管理職は皆、多能工なのです。

第70話 優秀な管理職がやるべきこととは?

 「何をやっているんだ」

 そう言って、怒鳴ろうものならパワハラと言われかねないと心配されている経営者がいらっしゃいます。確かに、叱れない雰囲気は最近、顕著になってきました。しかし、叱らなければならない場面で、叱れないのでは組織が成り立たなくなってしまいます。

 そこには、緊張感も何もありません。

 パワハラを議論されると、それまで叱っていた管理職も、これはマズイと思って叱らなくなってしまうことがあります。これが最悪。

 やはり、社員がマズイ行動をしたのなら、時を置かず、叱ることが必要です。ただし、暴言はダメです。「クビ」とか、「死ね」とか、「バカ」といった暴言は、殴る、蹴ると同じなのです。

 時には、語気を強めて、叱責するということがあっても良いでしょう。しかし、そこで暴言を吐かないようにすることです。管理職は、日常的に部下とのコミュニケーションを求められます。

 つまり、管理職は、日常的に部下へ何らかのフィードバックをする機会があるということです。この時、褒めるべきか、叱るべきかは、議論が分かれるところです。

 どちらでも構わないのではないでしょうか。

 もちろん、叱る場合には前述した点に気をつけなければなりません。しかし、部下は、叱られるというフィードバックを得ることで、自分の悪い部分を知って、改善できるようになります。

 あるいは、褒められることで、自分の良い部分を知って、さらに伸展させようと考えるかもしれません。どちらも、日常的なコミュニケーションとして必要不可欠です。

 ここで、管理職が注意しなければいけないのは、フィードバックを業績と連動させることです。逆に言うと、業績と連動しないフィードバックは、意味をなさないということになります。

 確かに、叱るより、褒めるほうが、部下から歓迎されるでしょう。とはいえ、叱るべきタイミングで叱れないと、グダグダした組織になってしまう危険性もあります。

 例えば、褒める場合は他の社員の前で称賛を得られるようにすべきですし、逆に、叱る場合は他の社員に知られないようにするという配慮も必要です。

 それにより、部下の自尊心を傷つけなくて済みます。

 優秀な管理職は、フィードバックを通して日常的に部下とコミュニケーションを取っています。密なるコミュニケーションが業績改善の第一歩です。

第69話 なぜ、社会保険料の対策が必要なのか?

 「賃金を下げるしかないな」

 これは、今後も会社が負担する社会保険料が上がり続けたらという質問に対するある経営者の方の答えです。平成15年に日本商工会議所が行った調査で、同様の内容を経営者に尋ねたところ、53%と最も多かったのが「賃金の調整を検討する」でした。

 やはり、賃下げを検討せざるを得ないのでしょうか。

 社会保険料の問題は、急速に高齢化が進んだ結果、深刻さが増しています。ご存じのとおり、我が国の社会保険制度は、世代間で扶養するシステムを採用しています。つまり、現役で働いている人たちが保険料を支払い、その保険料が年金として現在の年金受給者に支給されることになります。

 従来は、「胴上げ型」「騎馬戦型」で、複数の若者が一人の高齢者を支える構図でした。ところが、人口構造が変化して、一人の若者が一人の高齢者を支えるという厳しい社会の到来が目前に迫ってきているのです。いわゆる「肩車型」と言われるものです。

 これでは、今後、社会保険料が安くなる余地はありません。

 社会保険料は、労使折半ですから、社員の立場からすると、賃金は増えなくても保険料だけはじりじりと上がっていくことになります。つまり、社会保険料が上がり続けるのは、実質的な賃下げと同じなのです。

 加えて、会社の立場からすれば、社員に支払う賃金を含めて支払額が上昇するのですから、冒頭の経営者の言葉にも頷けます。しかし、社員の賃金に手をつけることは、彼らの生活を圧迫しかねません。

 逆に言えば、そのことで社員のやる気が低下し、生産性が落ちてしまうリスクもあるでしょう。会社の命取りになりかねません。

 このことからも、利益を確保できるような経営が求められています。会社に利益をもたらすのは社員であり、社員以外にはあり得ないのです。ヒト、モノ、カネと言われるゆえんですね。

 団塊の世代が年金の受け手になると、社会保険料のさらなる上昇は避けられません。それまでに、社員のやる気を上げる人事制度の構築や生産性を上げるための仕組みづくりを考えることになります。それは、社員が現場で認識できるものでなければなりません。認識できなければ、改善の見込みもないからです。

 社会保険料の上昇は、経営問題に直結しています。今後は、人件費の扱いにも注意が必要です。

第68話 自動車事故を未然に防ぐ方法とは?

 「自動車を運転中に意識を失って事故を起こした」

 仕事中に事故が起きると、会社も損害賠償責任が求められることがあります。

 以前、栃木県で、大型特殊自動車を運転中に、てんかんの発作で意識を失って小学生を死亡させた事件がありました。運転していた社員は、以前から発作による人身事故や物損事故を何度か起こしていました。なので、医師から運転を禁止されていたといいます。

 加えて、服用すべき薬を飲み忘れたことなどが重なって不幸な事故が起きてしまいました。当然、会社の損害賠償責任が認められています。

 会社は、てんかんの症状があることを知っていれば、回避できたかもしれません。ところが、社員が嘘をついて、てんかんの症状があることを隠していたとしたらどうでしょう。

 会社は、知る由もありません。

 それでも、社員に自動車を運転させる行為で利益を得ていたと解されますから、損害賠償責任は免れません。会社の立場からすれば、嘘をつかれて事実を知らないのに酷ですよね。このことから、会社には重い責任があることが分かります。

 当然、事故が起きてしまってからでは、会社の責任を回避することができません。逆に言えば、仕事で自動車を運転させる社員は、事故を起こさない人にすべきです。したがって、仕事や通勤で自動車を運転する社員については、事故を起こすであろう人の運転を承認しないことが重要になります。

 では、どうやって事故を起こす人を見極めるのでしょうか。例えば、過去5年間の事故歴を調べる方法があります。

 事故歴のうち、スピード違反や信号無視など、重大な事故につながるものが複数回ある場合は承認しないという基準を作っておくと良いでしょう。ただし、事故歴は、警察からの情報ですから、違反しても捕まらない場合もあるということは知っておいてください。

 また、自動車を運転するかしないかにかかわらず、病歴を把握しておくことが大事です。例えば、既往症はあるか、服用している薬はあるか、あればその種類と服用回数などを本人から聞いておくことです。ただし、採用の場面では、応募者は就職することを目的としていますから、事実を隠してしまうこともあります。

 前述したように、事実を知らなくても事故が起きれば、会社の責任は回避できません。つまり、体調を聞いたり、免許証の確認したりするなど、日ごろのコミュニケーションが事故防止に重要な役割を果たします。

第67話 どのようなメッセージを伝えるべきか?

 「何を教えて良いのか分からない」

 他の社員が、優秀な社員に成果を上げている方法を尋ねると、大抵このような答えが返ってきます。

 成果が上がる方法を教えてしまうと、出し抜かれてしまうかもしれません。それが理由で教えたがらないということは、当然あるでしょう。

 一方で、はっきりした理由が自分では分からないという場合も少なくないようです。例えば、自分では意識しているつもりでなくても何となくできてしまうという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

 あるディーラーでトップセールスになった方がいらっしゃいます。その方も、周りの社員から「どうしたらトップセールスになれるか」を尋ねられたそうです。最初は、自分でもお客さまから指示される理由がよく分からなかったそうです。

 よくよく掘り下げてみると、「自分ならこうして欲しい」と思うことをお客さまにしていたことが分かったそうです。そのことを確認するために、他の社員のセールストークを聞いてみると、明らかに違いがあったそうです。

 例えば、オーディオを選ぶ時にも、他の社員は自分が売りたいものを勧めていました。ところが、トップセールスの方は、普段、お客さまがどのような音楽の楽しみ方をされているのかを聴いて、それに適したものを勧めていたそうです。自分なら、普段聴いている音楽を車内でも楽しみたいと思ったからだそうです。

 この方は、「自分がして欲しい」ことを突き詰めた結果、他の社員との差別化ができました。このことに気づいてから、さらに売り方に磨きがかかったそうです。

 やはり、自分で自分のことは、よくわからないようですね。しかし、残念なことに、自分がトップセールスになってしまうと、周りに教えを乞う人もいなくなり、同時に尊敬できる人もいなくなってしまったそうです。

 その結果、転職という道を選ばれました。これは、会社にとって大変な痛手です。稼ぎ頭である優秀な社員の穴を、埋めるのに相当な時間を要するのではないでしょうか。

 ここで問題なのは、働き続けることの意味を見いだせなくなったからに他なりません。では、どうすれば、会社に残って、売上を伸ばしてくれたのでしょうか。

 一つの方法として、自らの売上を最大限に上げるのがゴールではないというメッセージを伝えておくことが大切です。つまり、トップセールスになるのが、目指すゴールではないことを理解させるのです。

 例えば、伸び悩んでいる社員に対して、うまく行ったやり方を教えて成果を上げさせることで最大の評価をします。このようにすれば、教えずに自分だけが成果を上げるということもなくなります。

第66話 会社が見せなければならないものとは?

 「早く一人前になって欲しい」

 経営者なら誰しも、このように考えていることでしょう。

 一人前というのは、何年かの教育を経て、会社の役に立って欲しいということにほかなりません。つまり、教えれば、会社の要求するレベルまで到達できる可能性がある人を採用していることになります。

 将来のことなので、確実に一人前になるとは限りません。会社の見込み違いであったり、社員の考えている状況と違うということは、よくあることです。その結果、会社にとって期待外れということも少なくありません。

 しかし、そのような場合でも、次に入ってくる社員こそ一人前に育って欲しいと願っているのではないでしょうか。このような状態が繰り返されると、社員は一人前になることなく辞めてしまったり、そうでなくとも生産性が落ちてしまうものです。

 そうならないためには、どうしたら良いのでしょうか。

 一つの手立てとして、採用の精度を上げることが考えられます。採用は、その時点では応募者の質がわからない状態です。言い換えれば、会社としては不確実な買い物なわけです。

 経営者が、社員に一人前になって欲しいと望むのと同じように、「この会社でなら力が出せそうだ」という思いで募集してくるのだと考えられます。これから入ろうという会社に、行くところがないからという理由はあるかもしれませんが、最初からやる気がなくて入ってくるケースは稀でしょう。

 もし、最初から働くつもりがないとか、やる気がないということであれば、人生をムダに生きるのと同じではないでしょうか。これは、応募者にとっても不幸なことです。

 そこで、採用時に、キャリアプランを示すようにします。

 「会社がこの先、○年間増収増益だったとすると、あなたの給料はこのようになりますよ」。「入ったら、○○と△△の仕事を覚えてもらいます」。「○○は通常2年、△△は通常3年で卒業です」。

 キャリアを採用の段階で示すことができれば、応募者としてもイメージができます。少なくとも、入る、入らないの判断が容易にできるようになるでしょう。

 応募者から見ても、会社への入社を決めることは不確実性が高いのです。会社として、採用時に将来のキャリアをコミットメントすることで、不確実性を下げることができるます。経営者にとっても、応募者にとっても、人生をムダにするわけにはいきません。

 社員に将来を見せるのは、経営者の最も大事な仕事だと考えています。それは、将来の社員に対しても同じことです。

第65話 会社が取るべき態度とは?

 「嘘をつかれたら、どうする」

 採用面接の場面で、よく問題になることです。面接する側としたら、嘘を見極めたいという心理が働くのでしょう。でも、面接の場で、すぐに分かるような嘘をつくほど間抜けな人がいるでしょうか。

 嘘も、しっかりした論理構成になっていたり、話の内容に一貫性があれば、信じてしまいます。面接の場では、少なくとも「入社したい」と思って臨んでいるわけですから、すぐにバレる嘘ならつかない方がましでしょう。その場で分かる嘘なら、合否の判定に使えますから問題ありません。

 問題になるのは、つかれた嘘によって、将来、トラブルが起きるなど会社のリスクが高まることです。そうなると、なんとか採用面接のときに見抜けないかと思うものです。その方が効率が良いですからね。

 確かに、顔の表情や声の発し方などから嘘が分かることもあります。しかし、それを分かるようになるには、かなりの時間が掛かります。経営者に、そのような時間的なゆとりがあるでしょうか。それよりも、経営者として他にやるべきことがあるのではないでしょうか。

 とすると、嘘は見抜けないものと、あきらめなければいけないのでしょうか。そうではありません。

 前述したように、嘘はその場で分かることが少ないものです。そこで、後々、嘘が露見した場合に、会社が有利なスタンスを取れるようにしておくべきです。

 それには、面接で本人にしっかり聞くことが大事です。例えば、履歴書には退職理由が「一身上の都合」と書かれているものが多いですよね。この場合にも、きちんと理由を聞いておくべきです。

 聞かなければ、嘘は出てきません。書いてあるものを、そのままスルーしてはいけません。嘘は、言葉として発せられるのです。

 個人情報保護法もあり、健康問題など立ち入ったことは聞きにくいからと遠慮する必要はないのです。業務に必要であれば、当然、聞いても良いのです。ただし、本人に直接聞くということが大切です。

 そして、「なぜ、聞くのですか」と問われたときに、業務を遂行するうえで聞かなければならない理由を明確に示すことができるようにしてください。こうすることで、後々、嘘が発覚したときには、身元保証人を交えた話し合いの場で、会社が有利なポジションを取ることができるようになります。

 嘘をつかれることが、悪いというわけではないのです。

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