第44話 会社が大切にしていることを伝えるには?

 「社長から給料をもらっています」

 これは、社長が社員にした質問の答えです。当然、社長は「お客さまから」という答えを聞けるものと思っていました。このような質問の答えに窮する社員はいるものです。

 確かに、直接的には会社から給料が支払われていますから、中小企業なら社長からもらっているのと同じことです。ところが、会社の売上が立たなければ、いつか給料も滞ってしまうでしょう。このことを想起できなければ、顧客視点で考えることは難しいのではないでしょうか。

 それは、例えば、売上などの成果につながらないことを意味します。ドラッカーも言っています。「企業にとって大切なのは顧客第一主義だ」と。

 顧客があるから会社が成り立っているのは、どこも同じでしょう。他にも、大切にしているものがあるハズです。

 多くの場合、それは社長の思いに宿っているのではないでしょうか。この思いが、伝わっていれば、少なくとも冒頭の社員の答えは違っていたでしょう。

 では、いつ伝えたら良いのでしょうか。

 それは、採用の時です。この時点で社長の思いを伝えておかないと、教育しても伸びないことがあります。だから、最初にトップのメッセージを発信することが必要不可欠なのです。

 行動のベースとなるのは、”会社が大切にしていること”です。これを社員全員で共有していくことです。

 会社は、多種多様な人が集まって仕事をしています。当然、価値観は、一人ひとり違いますから、衝突は避けようがありません。

 また、価値観が同じであれば、自ずと考え方も似通ったものになってしまうでしょう。それでは、イノベーションは起こせません。

 価値観の違いから混乱が起きた場合、”会社が大切にしていること”が明らかになってさえいれば、「一人ひとりの考えは違うが、目指すところは同じ」と思えるのです。

 このような組織風土を作っておかなければなりません。

 それには、「我々は何者なのか、そしてどこへ行こうとしているのか、そのために何を大切にし、どのように行動するのか」を言語化しておく必要があります。ただ、何となく思っているというのでは、社員に伝わりません。

 社員の能力を最大限に生かしたいのなら、”会社が大切にしていること”を浸透させる必要があります。浸透すれば、仕事で問題にぶつかった場合でも、会社の原点に立ち返って考えることができます。

 あなたは、”会社が大切にしていること”を発信し続けていますか。

第43話 チャンスを渡すとはどういうことなのか?

 「注意しても言うことを聞かない」

 このような社員がいると、業務に支障が出たり、他の社員へ悪影響を及ぼすことが懸念されます。雇い続けることによって、そのリスクが高まるであろうことは容易に想像できます。したがって、一刻も早く辞めてもらおうと考えるのは当然のことです。

 ところが、我が国では、ひとたび雇い入れたら、指導・教育を行って会社が面倒をみるべきだという考え方があります。つまり、会社には教育訂正機能があることになります。

 これは、あらゆる手をつくして指導・教育したけれど、改善できなかったという事実の積み上げが必要になるということです。言い換えれば、問題点を特定して、それに関する改善チャンスを社員に渡すということになります。

 例えば、営業でなかなか成果の出せない社員がいたとします。そこで、仕事を取り上げて干してしまうと、改善チャンスを与えていないことになります。

 改善チャンスを渡すということは、なぜ成果が出ないのかという問題点を特定し、必要に応じて支援することです。

 徹底した支援をすることで、これだけ支援しても成果が上がらなかったという事実が大事になるのです。そうでないと、会社に支援してもらえなかったから成果が出せなかったという口実を与えかねません。

 改善チャンスのカタチは様々です。

 例えば、休職も改善チャンスととらえることができます。健康で働くということを労働契約の内容として約束しています。ところが、病気で働くことができなくなると、この約束を守ることもできなくなってしまいます。そうなれば、契約の解消、すなわち解雇になります。

 しかし、それを一旦猶予して、休職に入れることは、すなわち改善チャンスを渡すということです。それでも治らず、休職期間が満了すれば、改善チャンスを渡したけれど改善できなかったということになるのです。

 このように、問題を特定することによって、様々な改善チャンスがあります。改善チャンスを渡すときに重要なのが記録を残すということです。

 例えば、日常の注意や指導であれば、その内容を具体的に書面で残すことになります。その内容を問題の社員にも確認させて、サインさせるのが良いでしょう。

 サインを拒否された場合は、改善する気がないと受け取ることができます。また、なぜサインできないのかを聞いたうえで、記録として残しておきます。

 ただし、書面を乱発すれば良いというものでもありません。あくまでも記録の内容が大事であり、問題点を改善する努力をしていることが客観的に評価されなければなりません。

第42話 社内報の利用価値とは?

 「社内報は、やってみえますか」

 このようにお尋ねしても「やっている」というお返事は、あまりいただけません。

 マーケティングでは、顧客とどのように向き合うかが大切ですよね。顧客との関係性を深めるために、接触頻度を増やす方法が有効だとされています。そこで、定期的に訪問したり、ニュースレターを発行したり、ステップメールをしたりする会社が多いのではないでしょうか。

 このように、外向きには関係性を深める努力をしていても、内向きには意外とやっていないものです。

 社員に対して、社長の見解を述べるメディアを持つということは、非常に重要なことであると考えます。社内報を使って、社長の考え方や会社の方針等の情報を、社員と共有できるようになります。また、経営理念の浸透度をより深めることにも役立ちます。

 マーケティングでいう顧客は、内向きに見れば社員と捉えることができます。しかしながら、普段、社員に伝わる発言をしているでしょうか。つまり、顧客目線ならぬ社員目線になっていますか。

 例えば、「売上を●●円にしましょう」とか、「もっと危機感を持って欲しい」という言い方は、経営者目線の発言です。そのまま伝えても、社員にはしっかり伝わりません。これが、文章であればなおさらです。

 例えば、ニュースレターの文章が、顧客目線を外れたものですと読まれないのと同じです。読まれなければ、関係性を深めることはできません。関係性を深めることで、会社と社員との間の不確実性を減らせるのではないでしょうか。言い換えれば、信頼の構築ですよね。

 なので、顧客に対して、いろいろ考えて試すことと同じように、社員に対しても接することが重要です。社内報をうまく活用できれば、社員を社長のファンにすることができます。したがって、このようなメディアを社長は持つべきだと考えます。

 体裁が整っていなくても、編集担当を置かなくても、いいのです。企画やデザインも関係ありません。短くても大丈夫です。紙媒体でも、メールでも、やりやすい方でいいのではないでしょうか。成果が出た社員を褒めてあげてもいいでしょう。インフォーマルな情報を盛り込むのでも構いません。社長との信頼関係は、より強固なものとなるでしょう。

 社員は、経営資源の中で最も大事な資源です。社内報=社員のためのものと捉え、社員に読まれる工夫をしましょう。

 もし、社内報を活用していないのなら、スグに実行すべきです。

第41話 何がパワハラになるのか?

 「上司の暴言が原因で仕事ができなくなって退職を余儀なくされた」

 元社員から、このように主張されて法外な金額を要求された会社があります。

 パワハラは、セクハラと違って法的概念はありません。しかし、暴言はダメです。「クビ」とか、「死ね」とか、「バカ」など一般社会の常識の範囲を超える言動はいけません。

 今、職場のパワハラが、社会問題となっています。

 厚生労働者が公表した「平成24年度個別労働紛争解決制度施行状況報告」によると、相談内容で一番多かったのが「いじめ・嫌がらせ」です。平成13年の施行以来ずっとトップだった「解雇」に取ってかわったのが「いじめ・嫌がらせ」なのです。「いじめ・嫌がらせ」は、ハラスメント対策として早急に手を打たなければなりません。

 そこで、この問題を考える時にハラスメントの語源を知っておくと良いでしょう。語源を調べていたら、ピッタリくるものがありましたので以下に引用します。

 原語の意味は、「深い、極端な疲労」である。

 もとの動詞はharasserで、これは猟犬をけしかけるときの叫び声haraceから作られた言葉である。

 原義は「猟犬をけしかけること」。

 つまりハラスメントとは、本来は猟犬に追われた獲物が感じるであろう絶望的な疲労感を指すのである。

 だから、「ハラスメント」は広義には「強者が弱者を」「傷つけ、いたぶるために」「執拗に攻撃すること」を意味する、とあります。(内田樹『子どもは判ってくれない』洋泉社、2003年)

 この中で、「執拗に攻撃すること」とありますが、執拗というのは「うるさいほど、しつこい」という意味ですね。

 例えば、褒められたり、感謝されたりされれば、うれしいものです。しかし、「うるさいほど、しつこく」褒められたり、感謝されたりしたら、どのように感じるでしょうか。

 逆に言えば、うれしい言葉がけであったとしても、度を過ぎれば「いじめ・嫌がらせ」に変質してしまうということです。例え、「傷つけ、いたぶるために」という意思がなくても、相手にとっては「いじめ・嫌がらせ」と受け取られてしまうでしょう。

 なので、相手にとって喜ばれる言動であっても、言い過ぎていないかをチェックすることが必要です。

 また、パワーについては、労働契約が指揮命令=パワーによって成り立っていますから特に注意が必要です。とはいえ、指揮命令や企業秩序に違反したりすれば、注意指導をするのは当たり前です。場合によっては、強い叱責もしなければなりません。

 ただし、パワーの濫用になっていないかのチェックを怠ってはダメですよ。

第40話 どうして初動が大事なのか?

 「もっと早く辞任すべきだった」

 猪瀬東京都知事の辞職表明を受けて、都の職員が漏らした言葉です。あちこちから同じようなコメントが寄せられていました。

 また、発売日が辞職の日と重なった『勝ち抜く力』は、何とも皮肉なタイトルになってしまいましたね。辞職は時間の問題だったのでしょうが、とことん追い詰められてからの辞職ですから、受けるダメージも大きなものでしょう。

 これと同じように、物事は、深刻化する前に手を打った方が良いです。もっと言えば、初動をどうするか、です。例えば、火事は、初期消火によって延焼を防ぐことができます。火がくすぶっているうちは、消しやすいですよね。

 労務管理についても同様のことがいえます。

 例えば、会社と社員の間でトラブルになるケースで考えてみましょう。トラブルになりかけた時に、最初の対応がうまくできれば大事には至りません。つまり、社内だけで解決することができます。労使自治の原則がありますから、これが本来のあるべき姿といえます。

 ところが、初動をミスった場合は、互いの感情が対立してしまって取り返しのつかない問題に発展してしまいがちです。実際にトラブルになったケースでは、上司に頭ごなしに言われた社員が第三者に相談しています。

 第三者というは、弁護士や司法書士、労働基準監督署あるいは合同労組などです。彼らに介入されると、問題が深刻化して、自分たちだけでは解決できなくなってしまいます。この状況に至っては、社員と密なコミュニケーションを取ることはほぼ無理です。

 また、部外者に介入されることで、費用や時間が余計に掛かります。加えて、様々なトラブルがありますから、複雑な対応を強いられることにもなるでしょう。すると、自分たちだけでは手に負えなくなってしまいます。

 したがって、これを避けるには、初動に力を注ぐことが大事になります。逆に言えば、問題の終結を見据えた初動を取るということです。

 初動を取りやすくするためには、例えば、相談窓口を設置しておき、気軽に相談できるようにすることも有効です。相談してくれさえすれば、対応策も検討できるようになります。

 早目に相談を促して、問題を放置しないことが重要です。放っておいて時が解決してくれるということはありません。

 トラブルの芽が大きくならないうちに摘み取れる環境をつくることが必要です。

第39話 社員は職場をどう見ているのか?

 「職場に何らかの違法状態があるとの認識が3割」

 連合総研が行った調査が、勤労者短観として公表されました。特徴としては、業種による差異は殆ど認められないものの、規模が小さい会社ほど認識の程度が高くなっています。

 最も認識している違法状態は、「支払われるべき残業代が支払われていない」というものでした。以下、「有給休暇が取れない」「労災を健康保険で処理させられた」「雇用保険や社会保険に加入できない」と続きます。

 今や、法律違反かどうかは、ネットで調べれば誰でも分かる時代になりました。社長よりも社員の方が詳しいくらいです。

 もう一つ、気になる調査結果が出ています。それは、職場の違法状態に対する社員の対応です。

 自分が違法状態を経験した場合に、何らかの行動を起こすと回答した人が44.6%に上りました。具体的には、多い順に「職場の上司や経営者に話す」「職場の同僚に相談する」「労働基準監督署に申し立てる」となっています。

 上位二つの行動については、社内で解決しようというアプローチですので、会社側もこの機会を活用したいものです。

 三つ目の労働基準監督署へ申し立てられるというのは、会社にとって弊害があります。

 最初に、臨検で監督官が介入して是正指導するパターンが一般的であると考えられます。残業代が支払われていない場合は、賃金の時効が2年ありますから、それを踏まえて指導されます。

 2年間分を支払ったら大変な金額になりますから、会社が持ちませんよね。監督官の言うとおり支払えばいいのでしょうが、難しい場合は監督官と交渉することになるでしょう。

 一度、監督官に入られれば、是正結果を踏まえて、また入られることになります。そのようなことがないように、違法状態を社内に通報できる仕組みを作ることが大事です。つまり、いきなり労働基準監督署へ申し立てるという行動を起こすのではなく、まず内部通報ありきのルールを作るということになります。

 このようなルールが機能すれば、合同労組、弁護士といった社外の第三者へ相談するという流れを断ち切ることができます。社外の第三者への相談を通して、紛争に至るケースはままあります。

 一方で、自分が違法状態を経験したとしても何も行動しない人もいます。勤労者短観では32.1%いるとしています。内訳は、黙って会社を辞める人と、黙って会社に居続ける人です。彼らの存在も覚えておきましょう。

 普段のコミュニケーションの質が問われます。

第38話 SNSトラブルの代償とは?

 「どうしてくれるんだ。御社の営業マンにTwitterで個人情報を漏らされた」

 社員のTwitter上のつぶやきが原因で、第三者から苦情を言われることがあります。

 いや、苦情だけならまだいいのですが、会社の評判がガタ落ちしたら経営を揺るがすことになりかねません。いや、いや、その上、損害賠償を請求されたら目も当てられません。このように、社員のSNS上の不適切な発言が、会社にとって大きなリスクをもたらすことがあります。

 誰もが世間に知られたくないことってありますよね。それを、社員自身は軽い気持ちで発信したのかもしれません。単に、息抜き代わりでつぶやいたのかもしれません。

 ところが、このような場合、会社側が負う責任は、かなり重いものになると考えた方がいいでしょう。というのも、この場合の構図は、対社員や対第三者企業ではなく、対第三者であるからです。

 巻き込まれた第三者は、損害賠償を請求できることになります。それも、漏えいした本人や会社に対してだけではなく、取締役についても責任を問われる可能性があるのです。つまり、管理体制をしっかり作っておかないと、会社のみならず、取締役自身も責任を取らざるを得なくなってしまいます。さらに、株主代表訴訟だって怖いですよね。

 なので、そうならないためのリスクマネジメントが大事になってきます。具体的にトラブルを防止するための管理体制とは、SNSの使い方、取り組み方等のガイドラインを策定し、就業規則の整備を行ってルールを明文化することです。加えて、それらを浸透させ、守らせるための社員教育が必要になります。

 会社には、多種多様な雇用形態の社員がいます。正社員とアルバイトでは、責任の重さも違えば、ロイヤリティだって違います。

 しかし、会社として一体感を感じられるように教育していかなければなりません。例えば、アルバイトが悪ふざけでTwitterに画像を投稿して休業や閉店に追い込まれた会社があります。その原因は、一体感が出せなかったのかもしれません。

 一体感を出すための手法として、漏えいした場合に社員自身が被るリスクを認識させることも効果があります。例えば、誹謗中傷をした書き込みをすれば、名誉棄損や威力業務妨害などの罪に問われる可能性があります。個人情報や営業秘密を漏えいすれば、不法行為で損害賠償を請求される可能性があります。これらは、当然、就業規則のルールに違反することですから懲戒の対象になります。

 これらを日々の教育の中で繰り返し認識させることが大事です。

第37話 総メディア時代のリスク回避策とは?

 「会社の大事な情報が、ライバル会社に漏れてしまった」

 これが、会社経営の根幹を揺るがすことになるかもしれません。

 例えば、ライバル会社に先駆けて秘密で開発していた商品があるとしましょう。それを社員が漏えいさせてしまった。しかも、その社員に悪意はなく、仕事を家に持ち帰った時に、不注意で社外の人がアクセスできるところへ情報をあげてしまったとしたら。

 そのことによって、本来、自社が売り出す商品をライバル会社が先んじて商品化してしまったら大きな痛手となります。

 このような情報のことを営業秘密と言います。具体的には、①秘密として管理されていること、②有用な情報であること、③公然と知られていないことの3要件を満たす技術上、営業上の情報を指します。

 冒頭の例の場合は、秘密裏に開発してきた努力がすべて水泡に帰すことになります。まず、ここで問われるのは、会社が営業秘密をどのように管理していたかということです。例えば、アクセス制限を設けているかとか、就業規則に秘密保持の規定を設けているかなどの適切な管理が求められます。

 このケースでは、自宅からもアップロードできる状態だったので、会社の管理が甘すぎたということになります。

 では、この時、社員に対して、どのような処分を科すことができるのでしょうか。

 悪気がないとはいえ、会社を危機的状況に追い込んだのですから何も処分をしないということはできません。しかし、懲戒解雇ができるかと言えば、会社の管理も甘かったわけですから難しいでしょう。全ての責任を社員だけに押し付けることは無理です。

 漏えいに対するリスク回避の体制が取られていないことで、社員に過失はあるものの損害賠償額の減額は避けられません。加えて、自社の情報を利用してライバル会社が商品化したとしても、法的手段は取れません。社外の人が閲覧できる状態にしてしまった時点で、前述の①と③の要件を欠きますので営業秘密ではありません。会社にとっては踏んだり蹴ったりです。

 このような事態を避けるためには、営業秘密の管理方法を徹底することが必要です。例えば、仕事を家に持ち帰らせないとか、会社が管理している端末からでないとアクセスできないとかのルールを決めて教育することです。

 せっかく、ルールを決めても社員がその内容を知らなければ守ることはできません。なので、決めたルールを守れるように、しっかりと教育することが大事なのです。

 現代は、誰もがメディアになれる時代です。時代に応じた対応ができないと、会社が被るリスクは計り知れません。

第36話 会社が、まず持つべきものとは?

 「社会貢献をお題目に掲げれば、いい人が採れるのではないか」

 社員を採用する場面で、このようなご相談を受ける場合があります。確かに、社会貢献を志向する会社の方が、世の中のために役立っているような気がします。加えて、社会貢献に価値を見出す人も増えています。

 しかし、それでは人は動きません。会社の価値観に共感して、会社と一緒に歩みたい、仲間に加わりたいと思わせることが重要です。でないと、ミスマッチが起こって早晩トラブルになるでしょう。

 「こんなハズではなかった」「いい人だと思ったのに…」。トラブルになってから、このように思われたことはなかったでしょうか。

 原因の一つとして、例えば、会社が猫の手も借りたいほど忙しければ、誰を入れても構わないと思いがちです。また、応募してくる人も生活が懸かっています。働くことでしか食べていく道はないのです。ですから、単に働ければ良いとか、入れれば良いとか、このように考えたとしてもおかしくはありません。

 だからこそ、会社の価値観を明らかにして、どのような使命を帯びているのかを、ビジョンを通じて見せなければなりません。ビジョンで将来を見せるのが、社長の仕事です。つまり、採用の時から、社長の思いを伝えることが重要です。あなたは、きちんと思いを伝えていますか?

 多くの会社では、そこに注力していません。なので、会社の持つ使命や価値観が明文化できていなかったり、明文化してあったとしても弱かったりします。その場合は、再構築すれば良いのです。

 会社として、経営資源の一つであるヒトを活用するために、まず持つべきものが使命や価値観です。これらは、社員の心の拠り所になります。仕事をしていて迷ったり、困ったら、使命や価値観に戻って判断する。だから、会社の基軸たり得るのです。逆に言えば、社員は使命や価値観に支配されていることになります。

 人は、それぞれ多様な価値観を持っています。多様な価値観の人たちが集まっているのが会社です。それでも、価値観に共感してさえいれば、会社と同じ方向に進むことは可能です。

 共感できなかったり、共感したフリをしていたりすれば、どこで歪がくるものです。会社の価値観に共感できない人は、最初から入れないことです。

 価値観ほど強力なものはありませんから、使わない手はないですよね。

第35話 メンタルヘルス対策は何が重要なのか?

 「300万人を超える人が病院にかかっています」

 これは、精神疾患の患者数のことです。厚生労働省が3年おきに発表している精神疾患の患者数は、平成17年に初めて300万人を超え、平成23年は320万人となっています。

 精神疾患の内訳は、うつ病や統合失調症ですが、中でもうつ病は著しく増加しています。加えて、うつ病は、自殺に関連することが多いと言われている病気です。しかし、実際には治療を受けていない人もたくさんいます。ですから、潜在患者数というのは、統計データよりも多いと考えなければなりません。

 仕事をさせることで、健康を害してしまう。これが、今、経営者の最大の悩みではないでしょうか。いわゆるメンタルヘルス問題ですね。

 この対策をするために、重要なのが労働時間管理です。最も重要だと言っても過言ではありません。長時間労働があると、疲れ過ぎて健康を害してしまうことがあります。その結果、労災と認められやすくなってしまいます。したがって、残業時間をいかに削減するかを考えることになります。

 そこで、まずは実際の労働時間を把握することから始めましょう。例えば、自己申告制を採用している場合は、社員の申告してくる労働時間をうのみにしない方がいいです。大抵、隠れた労働時間があります。倍くらいあると見積もってもいいかもしれません。

 要は、実際の労働時間と申告された労働時間が合っているかの調査をすることが重要です。このことは、殆どの会社がやれていません。やれていないとどうなるかというと、トラブルになった時に会社が把握していない多額の請求をされてしまいます。このように、労働時間を正確に把握できていないと、対策を打てないどころかリスクが増えるばかりです。

 労働時間の把握ができたら、どうしたら削減できるかを検討することになります。そうはいっても、お客さんがあることですから、簡単には削減することはできないでしょう。

 でも、労働時間の削減につながらないと何をやってもダメです。例えば、ある会社は、うつ病になった社員から訴えられましたが、かなり気を遣った措置を取ったにもかかわらず負けてしまいました。

 具体的には、仕事がない時には早く帰るように指導したり、産業医の面談を受けさせたり、配置替えの提案までしています。それでも、長時間労働が行われていました。

 要は、正確な労働時間の把握と残業時間の削減を行うことで、社員の意識を変えることがメンタルヘルス対策として重要なのです。

第34話 あきらめないことの大切さとは?

 「明けない夜は長い」

 シェイクスピアの『マクベス』のせりふですね。誰しも問題を抱えた時、解決の糸口が見つからないと、このせりふのように前途が混沌としてくるのではないでしょうか。いつまでも、出口が見えない状況が続くのではないかと不安ばかりが募るかもしれません。

 しかし、物事には必ず終わりがあります。労働紛争のあっせんの現場で、そのことを肌で感じることがあります。

 あっせんというのは、紛争を解決する手段の一つです。この制度は、裁判のようにガチガチの証拠で固めたり、証人に話を聞いたりするものではありません。つまり、法的な解決ではなく、労使双方の話をよく聞いて落としどころを探るということになります。

 トラブルに至るまでには、いくつもの行き違いが双方にあって、時間の経過とともにのっぴきならない状況になってしまいます。言い換えれば、コミュニケーション不全に陥るということです。

 先日も、解雇についての話し合いが持たれました。双方に、それぞれの言い分があります。会社側は元社員によかれと思ってしたことだと言い、元社員側は会社の嫌がらせだという主張です。

 お互いに、相手がどう出てくるのか腹の中は分かりません。部屋の中は、空気がピーンと張りつめているのが分かります。その中で、解決の糸口を見つけるために、双方の妥協点を探っていかなければなりません。解決のためには、双方ともに、正しいことも、そうでないことも、ひっくるめて受け入れてもらう必要があります。

 この時は、契約を解消して金銭で解決することになりました。しかし、双方の提示する金額にかい離があって、なかなかまとまりません。冒頭のせりふどおり、不安に苛まれます。

 そんな中、元社員側から訴訟もやむを得ないという発言が出ました。このまま、まとまらない話を続けてもらちがあきません。その場合は、話し合いを打ち切ることになります。

 いよいよ打ち切りもやむを得ないかと思われた時に、妥協点を見出し、解決することができました。その瞬間、緊張が解けたのか社長の口から本音がポツリ。「自分の気持ちとしては一銭も払いたくない。だけど、会社としては早く解決できて良かった」。また、元社員も安堵の表情を浮かべていました。

 いつ頃から両者の歯車が狂いだしたのか、なぜこんな事態になってしまったのか。モヤモヤした気持ちが、やがて嫌悪に変わっていったのでしょう。双方の話し方や、話す内容から、そのように感じられました。話をよく聞いてあげることで、感情も何もかもひっくるめて、こちらの提案を受け入れることができたのだと思います。

 人の話をよく聞くという行為は、話し手に「自分の話を聞いてくれた」という満足感を少なからずもたらすのでしょう。今回の当事者も、普段からお互いの話に耳を傾けていたら、あっせんをするまでに溝は深まらなかったに違いありません。

 何事もあきらめないことですね。

第33話 社内コミュニケーションに求められることとは?

 「職場の人間関係の問題」が41.3%。

 これは、労働者に、仕事や職業生活に関するストレスの内容を尋ねた最近の調査で最も多かった回答です。次いで、「仕事の質の問題」(33.1%)、「仕事の量の問題」(30.3%)の順になっています。

 この調査は、厚生労働省が5年に一回実施しているもので、ご紹介した上位三つは平成19年の前回調査と同じ順位でした。また、就業形態別の集計でも、正社員とパートタイマーで「職場の人間関係の問題」が最も多く、特にパートタイマーで突出しています。さらに、契約社員と派遣社員でも、二番目に多いのが「職場の人間関係の問題」なのです。

 このことを理解しておくことは、職場でのコミュニケーションを取るうえで重要です。

 かつて、電通事件により長時間労働、つまり仕事の量がクローズアップされた感は否めません。ところが、働く人たちにとっては、職場の人間関係、特に上司と部下の関係が一番のストレスになっているという事実があります。

 近年の労働相談において、いじめや嫌がらせといったハラスメントの増加が、それを象徴しているのかもしれません。別の見方をすれば、職場の人間関係の問題は、社内である程度コントロールすることが可能です。

 例えば、良いリーダーを育成し、そのリーダーを中心にコミュニケーションを深めることで解決できることもあります。

 コミュニケーションは、単にその数を増やせば良いというものではありません。質が大事なのです。しかし、質を確保するのは難しいです。

 例えば、うだつの上がらない部下に対して、改善プログラムを実施するとしましょう。今まで成果が出ていない人に対して、いかに理解させて成果を出させるかということですから、部下に的確に伝わらなければ話になりません。

 少し考えてみてください。できる部下を育成するよりも、はるかに高い質のコミュニケーションが要求されることがわかると思います。ここは、いかにムダをそぎ落として、部下の腹に落とせるかにかかっています。いったん腹に落ちて、結果が出ればやる気になります。少しの成功をいくつも重ねれば、勝ち癖もついて自信にもなるでしょう。

 逆に、失敗すれば成績が悪化するばかりか、マイナスの感情を持たれてしまいます。そのまま会社に居続けられなければ辞めてもらうことになりますが、その時にマイナスの感情が強いとトラブルになる可能性が出てきます。したがって、リーダーの育成は急務なのです。

 これに対し、仕事の質と量の問題は、社内だけで解決できないという側面があります。「仕事の質」に関してはクレームの問題がありますし、「仕事の量」に関しては客先の要望も含まれています。なので、外部からいかに社員を守っていくのかを検討する必要があります。

 社員がストレスに感じる上位三つの問題を同時に対策することが有効です。

第32話 終わりよければ…とするためには?

 「会社をぎゃふんと言わせたい」

 会社を辞めた社員の言葉です。例えば、「10年以上も勤めてきたのに、ぞんざいな扱いをされた」とか「上司や同僚にハラスメントを受けた」などといったマイナスの感情を社員に持たれることがあります。

 感情そのままに辞められると、トラブルになるリスクが高まります。というのも、社員が退職することで、入社前の不確実な関係に戻るからです。つまり、相手が自分の利益だけを考えて行動できる状態になります。

 そして、中には「ぎゃふんと言わせる」行動を実際に起こす人も出てきます。例えば、未払残業代の問題がそうです。この問題の中心となるのは、圧倒的に退職者です。在職中に我慢して蓄積してきた不満が、一挙に爆発するといったところでしょうか。

 そして、会社にとっては、突然、内容証明などが送り付けられてきて多額の請求をされることになります。その時に、慌てて対策を取ったとしても、会社は無傷では済みません。既に、リスクが発生しているからです。

 話し合いの場に引っ張り出される時間的なロス。解決するために利益が削られてしまう金銭的なロス等々。これらは、時間を掛けたから、あるいはお金を支払ったからといって生産性を向上させるものではありません。

 また、一人の退職者にしたことでも、他の社員は会社の取った行動を見ています。つまり、会社にいる社員、退職者、今後入社してくるであろう社員に対しても同様のことをしなければならない可能性があります。会社にとっては、甚大なリスクとなる可能性があるのです。

 このことから、社員が退職する時にマイナスの感情を持たせないことが重要であると理解できます。人は、入社したら、例外なく退職します。いくら優秀な社員でも、いくら会社が居て欲しいと望んだとしても、いくら得意先から請われたとしても100%辞めるのです。

 多種多様な人間が集まる会社では、社員にとって、いいことばかりではなく、自分の意に沿わないこともあるでしょう。不満やストレスをためることもあるでしょう。それをいかに、退職前に緩和できるかがポイントになってきます。

 今や非正社員が、全体の3割を超える時代となりました。これは、短期の契約が繰り返されることに外なりません。逆に言えば、契約の度に約束が守られないと不満が蓄積されてしまうことになってしまいます。

 それを防ぐためには、まず、社員との間で守れる約束をすることが大切です。そして、かつて正社員が殆どを占めていた昭和の時代のように、終わりよければ全てよしという状況を作り出すことができればリスク回避ができるようになります。

第31話 採用で工夫すべきこととは?

 「いい人を採りたい」

 よく経営者の方がおっしゃいます。

 雇用の全ステージの中で、採用ほど不確実性が高いものはないでしょう。どのような性格で、どのような能力を持っているかなど、殆ど分かりません。つまり、相手を信頼できない状態です。このことから、採用の悩みは会社にとって、海よりも深いテーマと言えますね。

 確かに、採用というと「悪い人」よりも「いい人」のイメージが強いです。ところが、いい人に着目していても、採用を成功させることはできません。

 理由の一つとして、いい人の定義が曖昧だからです。当然、会社毎に、いい人の定義は異なります。いい人とは、「真面目な人」でしょうか「仕事ができる人」でしょうか、それとも「声が大きい人」でしょうか。これでも抽象的でよく分からないのですが、定義をしていたら、まだいい方です。

 多くの場合、いい人の定義すらできていないのではないでしょうか。とすれば、採用時に、いい人を見極めるのは至難の業です。採用担当者に値踏みされる応募者も、いい人を装って何とか滑り込みたいと思うでしょう。忙しいので誰でもいいから採りたい採用担当者と、どこでもいいから入りたい応募者の思惑が合致すればミスマッチは避けられません。

 巷には、表情で見分ける方法や適性検査による方法等を紹介する書籍などの情報が氾濫しています。仮に、そのような技術が、いい人を採るために有効だとしても短時間で取得することは難しいでしょう。それよりも、経営者として他にやるべきことがあるハズです。

 また、技術に頼り過ぎると、本当に採るべき人を逃してしまう機会損失が起こるかもしれません。そこで、180°発想を変えてみることをお薦めします。つまり、後々、トラブルになるような人は絶対に採らないということです。これなら、いい人よりも、はるかに見極めやすいです。

 例えば、職歴について尋ねる場合を考えてみましょう。この時、アルバイトも含めて全ての職歴について聞いているでしょうか。人には、言いたくない過去だってあります。

 それが、前職を解雇されたとか、うつ病などで療養していたとかなら、知られたくはないでしょう。これらが原因で、職歴飛ばしやうその申告をしてしまうことも考えられます。俗に「一身上の都合」という退職理由は、カモフラージュ可能な書き方ですよね。

 とはいえ、うそをつかれたとしても、スグには分からないものです。でも、聞いて証拠を残しておけば、うそがバレた時に会社が有利なポジショニングを取ることができます。

 このように、ほんの少しの工夫で会社をトラブルから守ることができるようになります。

第30話 不正を防ぐためには何が必要なのか?

 「盗んだのではなく、借りただけ」

 会社の金に手をつけてしまった社員が、その行為を正当化する時の言葉です。つまり、言い訳ですね。

 不正をしようと思って入社してくる人は論外ですが、多くの社員は会社の金を持ち出すのがよくないことは分かっています。しかし、不正が繰り返されてしまう。

 例えば、こんな事件がありました。ある会社の支店で、経理の女性社員が本社への資金請求をごまかして2,000万円を横領したことが発覚しました。手口は、支店の責任者である経理課長がした資金請求を差し替えて訂正する方法で行われました。月次で締める時に、会社の通帳を改ざんして記帳し、バレないように体裁を整えていました。それでも、最初は使った金を戻していたのです。まさに、冒頭の言葉どおりですね。

 しかし、着服した金額が200万円、300万円と大きくなるにつれ、返済が滞るようになります。27歳の彼女は、洋服や着物に横領した金の多くを使いましたが、もう返せないと思ったとたん、使い込みは激しくなっていきました。

 長らくバレなかったのは、彼女が支店の幹部に信頼されていたことが一因です。ランチタイムは、毎日、支店長と経理課長と3人で過ごします。前職が銀行員だった彼女は、日常の仕事をテキパキとこなしていました。会社には、早目に出勤し、休みも取らずに働くから、幹部連中のウケがいいのです。このような状況でしたので、不正が発覚した時は、驚きと落胆が入り混じって、誰も信じられないといった感じでした。

 これは、ドナルド・クレッシーの仮説である「不正のトライアングル」で説明できます。

 一つ目は、他人に打ち明けられない「共有できない問題」を抱えているということです。この場合は、華美な洋服やぜいたく品が欲しいという金銭の希求になります。つまり、合法的なやり方では解決できないことをプレッシャーに感じ、これが引き金となって不正に手を染めたということになります。

 二つ目は、社内での自分の信頼を悪用し、秘密裏に行えば問題が解決でき、発覚のリスクが少ない「機会の認識」です。つまり、やってもバレない状況だから不正が起きてしまうのです。彼女の場合は、自分の立場を最大限に利用したことになります。

 三つ目は、「正当化」です。これが、冒頭で述べた言い訳に当たります。

 で、不正を防止するためには、このトライアングルを潰せば良いことになります。例えば、やってもバレないと考える「機会の認識」を潰すには、懲戒規定を整備することが考えられます。懲戒規定は、ややもすると罰則に比重が置かれてしまいます。ですが、ここは個人の不正を思い留まらせることに注力するべきです。

 そのためにも、不正を許さないという正しいメッセージを伝えることが大事になります。

第29話 思いを業績に反映するには?

 「社員が思いどおりに動いてくれない」

 このような悩みを抱えている会社では、社員も一体感を感じていないことが少なくありません。つまり、社員の側も、どのように行動していいのかが分からないのです。したがって、行動がバラバラになってしまって、第三者からみても一貫性がないのです。そうなると、世間は信用してくれなくなってしまいます。

 そこで、一度、経営理念を見直してみることをお勧めします。経営理念というのは、次のような階層構造になっています。

 「使命」「ビジョン」「価値観」「行動指針」。

 最上位の概念である「使命」は、会社は何のために存在しているのかという存在意義を表します。例えば「新しい社会のパラダイムを洞察し、その実現を担う(㈱野村総合研究所)」というように表現します。

 「ビジョン」は、会社がどこに行こうとしているのかを見せることです。これは、会社がどこを目指しているかを示す、いわば経営の約束事と言えるでしょう。例えば「優れた価値を提供し社会に貢献する(森永乳業㈱)」というように表現します。

 「価値観」は、会社が何を大切にしているか、共有すべき価値基準です。例えば「誠実さ、リーダーシップ、オーナーシップ、勝利への情熱、信頼(P&G㈱)」というように表現します。

 最下位の概念である「行動指針」は、言葉どおりどのように行動するかということです。つまり、社員が持つべき心構えや行動のあり方です。例えば「安全こそ経営の基盤、守り続けます(ANAホールディングス㈱)」というように表現します。

 これらは、どのような規模の会社でも持っているハズです。明文化していないこともあるでしょう。それでも悪くはないのですが、社員が腹落ちしているかが疑問です。

 経営理念については、様々な研究がなされていますが、業績との正の相関を認めたものが多いです。その前提として、経営理念を社員が理解していることが指摘されています。逆に言えば、社長が大切にしている思いを伝えて、理解されることで業績が伸びるということです。そのためには「見える化」が必要になってきます。

 やはり、明文化が必要ですね。明文化して、一人ひとりの行動に結びつけることが大事です。その結果が、業績に反映するのです。

 ところが、わかっていることと、それを行動に移せることは別問題です。このことは、第27話でもお伝えしました。http://goo.gl/7Xcm3Q

 経営理念を行動に移せるようになるためには、腹に落ちるまで反復する必要があります。これには、少なからず社員の能動的な努力も求められます。ただし、いくら優秀な社員でも、身に付けようとする自発性に依存することはリスクがあります。

 そこで、会社は例えばミーティングなど、反復できる機会を設けて経営理念の読み合わせや確認を日常的に行うと良いでしょう。ここは、会社毎に、それぞれのスタイルを探すところです。

第28話 共通語のすすめ

 「どう判断して良いか分からない」

 仕事をしていると難しい判断を強いられることがあります。そのような局面で、社員一人ひとりが全く違う判断をしたとしたらどうでしょう。第三者が、奇異の念を抱くに違いありません。

 これでは、会社の行動は一貫性を欠くこととなり、世間の信用を損ねてしまいます。例えば、うそをつく時にだって、話の状況や設定に矛盾があれば、一貫性が損なわれ、即座にバレてしまいます。一貫性がないということは、たとえうそであったとしても、裏表があるように思われて信用されないのです。逆に、うそに一貫性があれば、真実よりも信じられてしまいます。

 社員個人が下した判断であっても、会社の判断と取られてしまうのが世の常です。しかし、会社は、多様な性格、多様な考え方を持つ社員で成り立っています。言い換えれば、多様性があるからこそ、イノベーションを起こして会社が進化していけるのです。

 一方で、多様性が邪魔をして様々な価値観を主張し出すと、会社としての一貫性が保てなくなってしまいます。これを打開するには、普段から会社が立ち戻るべき原点を社員が共有しておくことが大事です。具体的には、経営理念を明らかにして、それを達成するために実践しなければならないことを社員の腹に落とさないといけないのです。

 つまり、社内の共通語を作るということと等しいのです。例えば、異国間で話をする場合、同じ言語で話す人たちだけが集まって、その中だけで分かる話をしていると、取り残された人たちは何も分からずじまいです。となれば、異文化の違いも理解できないでしょう。これでは、人間関係を深めることはできませんよね。

 このように考えると、会社の原点、すなわち社員の心のよりどころを共通認識として持っておくことが経営上、重要であることが分かります。また、社員が共通認識を持って、それに伴う行動ができれば、組織としての一体感と一貫性を訴求しやすくなります。それには、共通認識をコミュニケーションの一つの手段として位置づけることで浸透しやすくなるのです。つまり、社員同士が、日々、共通認識について語り合う機会を増やすことです。

 いつも目にする、誰の目にも触れるようなカタチにして、それを題材に議論すれば、難しい局面を迎えた時でもブレない判断ができるようになります。ぜひ、会社の”共通語”を作ってみてください。

第27話 育成するための条件とは?

 「ロボット掃除機型」「奇跡の一本松型」「はやぶさ型」

 これ、何だかわかりますか?

 毎年、春先に日本生産性本部が発表している新入社員のタイプを表したネーミングです。こうしたネーミングの一覧を見てみると、はやりなど、その時世を反映していて、思わず膝を打ってしまいます。

 このように、毎年、注目を浴びて入ってくる新社会人には、どの会社も研修プログラムとしての新入社員教育を熱心に行っているようです。人材コンサルティングのディスコが実施した「社員研修に関するアンケート」によると、実に95.5%の会社で実施されています。しかし、内容については「マナー教育」「リーダーシップ教育」の実施率が高く、「語学教育」「経営理念・DNAの継承」の実施率が低くなっています。実施率の低いプログラムは、ニーズも低い傾向にあります。

 確かに、マナー教育やリーダーシップ教育は必要です。しかし、いの一番で行うべきは、会社のルールについての教育であると考えています。我が社のルールは、サッカーなのか、ラグビーなのか。「サッカーのルールだから、手でボールを持ったらダメなんだよ」と教えるべきです。

 会社のルール=約束ですから、約束を知らずして守れるはずがありません。約束が守られなければ、組織として機能しないばかりか生産性も落ちてしまいます。

 約束の中には、経営理念やDNAが行動指針として入っていなければなりません。仕事上の問題を解決するために、何を基準に考えるのか。社員全員が、その原点ともいうべき経営理念を分かっていなければ判断がバラバラになってしまいます。これでは、一体感が出ません。

 また、分かっていればいいのかというと、それでは不十分です。分かっているのと、行動できるのとでは雲泥の差があります。以前、ご相談があった社長は、社員の挨拶ができていないことに頭を抱えていらっしゃいました。普段、挨拶を交わすことで、相手や周囲の人たちにエネルギーを与えていることも少なくありません。そのような効用もある挨拶が大事だということは、小学生でも知っています。当然、社会人なら知っているはずです。ところが、行動に移せないのです。

 このように、知っていることと、行動できることとは違うのです。なので、繰り返し何度でも、ルールを確認することが大事なのです。

 アンケートでは、経営人材の育成にも触れていて「計画的に育成しても意味はない」は4.9%にとどまり、何らかの育成方法が必要であるという考えが大勢を占めています。労務管理のポイントは、つまるところ「仕事を通して育成する」ことだと考えています。その前提となるのが会社のルールの浸透です。

 あなたの会社では、どのような育成計画をお考えですか。

第26話 懲戒の正しい使い方とは?

 「無断欠勤を何回やったら辞めさせられますか」

 経営者の方から、このようなご質問を受けることがあります。欠勤という行為は、本来の約束が守られなかったということです。

 ただし、辞めさせる、つまり、解雇ということになると、いろいろな問題が出てきます。この事案の場合、いきなり解雇をすることはできませんから、その手前に改善手続が要るようになります。

 ここで大きな意味を持つのが懲戒です。無断でなくても、欠勤が一定程度繰り返されれば、他の社員の士気が下がり、会社の秩序を乱すことになって、懲戒の対象になります。そこで、最初に対応するときには、いきなり懲戒ではなく、注意や指導をするべきです。

 注意や指導をしたにもかかわらず、また繰り返すなど、十分な改善が認められない時に初めて懲戒を行うということになります。その懲戒は、けん責のように一番軽いものを選ぶことになります。そして、何度注意しても改善されないということであれば減給の処分という流れです。つまり、軽い処分を繰り返すことになります。これが、改善のチャンスを渡すということです。要するに、この処分は、社員との労働契約が続いていくことが前提となります。

 欠勤の場合は、けん責とか減給といった懲戒が改善指導になります。この指導を何か月単位で行って、記録を残しても、結果として改善しなければ、やむを得なく解雇を選ぶことになります。

 改善指導で問題となるのは、本当に改善させようとする意思がないと取られてしまうことです。改善指導を行って、その社員をもう一度有効に活用しなければ意味がありません。したがって、最初に解雇ありきで手続をすると、改善指導の記録が残っていても、改善する意思がないと取られかねません。

 言うまでもなく、懲戒は約束です。つまり、就業規則などに書いてあるものだけに権限があります。なので、就業規則に書いていなければ改善手続も踏めないということになってしまいます。

 また、懲戒には、いろんな行為パターンがありますし、現時点では考えられなくても、将来、新しいものが加わる可能性は十分あります。それを見越して、書いておかなければいけません。だから、一般条項として「上記に類する事項」などと入れておく必要があります。

 懲戒を「罰」としての機能はもちろん、「改善手続」として使う場合は就業規則の整備が欠かせません。あなたの会社の就業規則は、大丈夫でしょうか?

第25話 辞める時のルールとは?

 「今月いっぱいで辞めたいんですけど…」

 突然、社員から、このように言われたら困ってしまいますよね。繁忙期だったり、限られた人数でやっていたりするとなおさらです。しかし、退職を拒むことはできません。

 社員から辞めるという場合、一定期間が過ぎると労働契約は消滅します。つまり、社員は辞めることができます。この場合、給与がどのような単位で決まっているかによって、大きく二つのパターンがあります。

 まず、パートタイマーなどの時給者や日給者で、契約期間の定めのない人たちです。この場合は「辞めます」と言ってから2週間を過ぎると辞めることができます。

 次に、正社員などの月給者で、契約期間の定めのない人たちです。この人たちは、給与計算期間中、いつの時点で「辞めます」と言ったかで変わってきます。給与計算期間の前半に言うと、その期間の最後の日に辞めることができます。例えば、15日締めの会社なら、7月20日に意思表示すれば8月15日が退職日となります。後半に言った場合は、次の計算期間の終了日が退職日となります。例えば、8月10日に意思表示すれば9月15日で辞めることができます。

 ただし、例えば、就業規則で30日前までに意思表示をするように書いてある場合は、違ってきます。この場合、法律か就業規則か、どちらか社員に有利な方が適用されることになります。つまり、早く辞められる方ですね。ここで注意すべきは、就業規則に14日前までに意思表示をするように書いてある場合です。こうなると、常に就業規則の規定が適用されることになります。

 なお、契約で期間が定められている人は、また扱いが違います。原則として契約期間が終わるまでは辞めることができません。逆に言えば、社員は、会社から「辞めろ」と言われても契約期間の終了までは雇用が保障されているということになります。

 このことから、例えば、専門性の高い人は期間契約にするという選択もあります。このような人たちは、労働契約の期間を最長5年取ることができます。すると、理論上は5年の契約を結べば、社員は、その間、会社にとどまる外なくなります。とはいえ、会社としては柔軟な対応をした方が良い場合もあります。

 まとめると、契約の仕方に応じて、二種類あることがわかります。一つ目が自由に申し出て一定期間を過ぎると辞められる、期間の定めのない人たち。二つ目が期間に縛られる、期間契約者の人たち。

 どのような契約形態を選ぶと、どのような終わり方をするのか押えておくこと。その上で、話し合いを持てるようにしておくのが理想です。

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