第30話 不正を防ぐためには何が必要なのか?

 「盗んだのではなく、借りただけ」

 会社の金に手をつけてしまった社員が、その行為を正当化する時の言葉です。つまり、言い訳ですね。

 不正をしようと思って入社してくる人は論外ですが、多くの社員は会社の金を持ち出すのがよくないことは分かっています。しかし、不正が繰り返されてしまう。

 例えば、こんな事件がありました。ある会社の支店で、経理の女性社員が本社への資金請求をごまかして2,000万円を横領したことが発覚しました。手口は、支店の責任者である経理課長がした資金請求を差し替えて訂正する方法で行われました。月次で締める時に、会社の通帳を改ざんして記帳し、バレないように体裁を整えていました。それでも、最初は使った金を戻していたのです。まさに、冒頭の言葉どおりですね。

 しかし、着服した金額が200万円、300万円と大きくなるにつれ、返済が滞るようになります。27歳の彼女は、洋服や着物に横領した金の多くを使いましたが、もう返せないと思ったとたん、使い込みは激しくなっていきました。

 長らくバレなかったのは、彼女が支店の幹部に信頼されていたことが一因です。ランチタイムは、毎日、支店長と経理課長と3人で過ごします。前職が銀行員だった彼女は、日常の仕事をテキパキとこなしていました。会社には、早目に出勤し、休みも取らずに働くから、幹部連中のウケがいいのです。このような状況でしたので、不正が発覚した時は、驚きと落胆が入り混じって、誰も信じられないといった感じでした。

 これは、ドナルド・クレッシーの仮説である「不正のトライアングル」で説明できます。

 一つ目は、他人に打ち明けられない「共有できない問題」を抱えているということです。この場合は、華美な洋服やぜいたく品が欲しいという金銭の希求になります。つまり、合法的なやり方では解決できないことをプレッシャーに感じ、これが引き金となって不正に手を染めたということになります。

 二つ目は、社内での自分の信頼を悪用し、秘密裏に行えば問題が解決でき、発覚のリスクが少ない「機会の認識」です。つまり、やってもバレない状況だから不正が起きてしまうのです。彼女の場合は、自分の立場を最大限に利用したことになります。

 三つ目は、「正当化」です。これが、冒頭で述べた言い訳に当たります。

 で、不正を防止するためには、このトライアングルを潰せば良いことになります。例えば、やってもバレないと考える「機会の認識」を潰すには、懲戒規定を整備することが考えられます。懲戒規定は、ややもすると罰則に比重が置かれてしまいます。ですが、ここは個人の不正を思い留まらせることに注力するべきです。

 そのためにも、不正を許さないという正しいメッセージを伝えることが大事になります。

お問合せ・ご相談はこちら

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
03-3554-3666

受付時間:9:00~17:00
定休日:土日祝祭日