第71話 なぜ多能工が必要なのか?

 「何でもできる人に決まっているさ」

 これは、どんな人を管理職に登用するかをお尋ねしたときに返ってきた答えです。殆どの経営者の方が、このようなお考えをお持ちのようです。それは、当然ですよね。

 会社に一部門しかないというのは、ほぼありません。例えば、製造業なら、製造部門はもちろん、営業部門だってあるのが普通です。

 このような場合、営業部門の経験しかない人に管理職を任せるとどうなるのでしょう。自分のいる部門のことしか考えられなくなってしまうことが、容易に想像できるのではないでしょうか。

 もちろん、立場もありますから、自分の部門を優先に考えることは必要でしょう。しかし、弊害の方が大きく、例えば、製造部門と営業部門の仲が悪くなってしまいます。つまり、同じ会社でありながら、協力できないということになってしまいます。すると、将来の業績にも響いてくるのではないでしょうか。

 このことからも、会社のすべてのセクションを経験することが大事なのです。

 例えば、オーケストラの指揮者は何も楽器を演奏できなくても務まるのだそうです。ところが、それでは人心を掌握することができません。掌握できなければ、オーケストラが指揮者の思いどおりに機能しなくなってしまいます。

 ある指揮者の方は、指揮者であっても一つは演奏者として負けない楽器を持つべきだと主張されていました。それは、楽器を取得する難しさが分からないと、演奏者の気持ちが分からないからなのだそうです。

 管理職も同じです。いろんな仕事を経験していないと部下の気持ちが分かりません。また、他の部門の人の気持ちが理解できません。その結果、独り善がりの判断に終始するのです。

 だから、何でもできる人がいいのです。特に中小企業であれば、部門も少ないでしょうから、すべてこなせる方が優秀なのです。

 ところが、実際の人事は、そのようになっていません。営業で入ったら、営業畑でずっと仕事をして、営業部長になるケースが圧倒的に多いのです。

 これは、採用に問題があるからです。採用時に職種を限定するから、このような問題が起きるのです。

 一つの解決策としては、中途採用を中止して、新卒採用に切り替えるという方法があります。ただし、中途採用と新卒採用とでは、手法がまったく異なりますので、相当期間の準備が必要になってきます。

 もう一つの解決策としては、職種限定を外したかたちで労働契約を結び直す方法です。この場合、基礎的な知識や技能をクリアさせることによって仕事の経験を積ませます。

 その結果、人の気持ちが分かる管理職になれるのです。なので、中小企業において、優秀な管理職は皆、多能工なのです。

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