第16話 実際の運用が大事な訳とは?

 「賃金規程なんて初めて見ました」

 続けて「営業手当を定額残業代として支払うなんて聞いていません」。未払いの残業代をめぐってトラブルになった元社員は、憮然として返事をしました。

 事の発端は、定額残業代です。定額残業代というのは、労働基準法で定めている割増賃金を固定的に前払するものです。したがって、実際に行われた残業に対して、差額を支給することが明らかになっていなければなりません。つまり、定額残業代が有効となるには、就業規則や雇用契約書が整備されていることが前提となります。

 例えば、基本給が20万円で、営業手当が8万円としましょう。この場合、就業規則で営業手当について、定額残業代である旨、規定してあれば名称は何であれ定額残業代として扱われます。なので、営業手当の8万円は、割増賃金の計算の基礎に入れなくてもいいことになります。

 割増賃金を計算する場合には、家族手当、通勤手当、住宅手当等の算定から除外できる賃金以外はすべて算入する必要があります。ところが、就業規則で定めた定額残業代は法律上の時間外労働手当ですから、割増賃金の基礎となる賃金に算入しなくてもいいのです。

 仮に、就業規則に不備がある場合は、28万円を基にして割増賃金の計算を行うことになります。すると、20万円の場合と比べて時間単価が上がってしまいます。さらに、1プラス0.25が乗っかってきますから会社にとってはダブルパンチです。

 冒頭の事件では、未払いの残業代として会社が請求された金額は180万円。社員によると、定時で帰った記憶は数えるほどしかなく、少なくとも毎日2時間以上の残業があったということです。会社は賃金規程に、営業手当を定額残業代として支払う旨の定めがあります。なので、会社としては就業規則を根拠に、請求金額を10分の1程度に下げたいと考えています。

 昨今は、この定額残業代に対して、会社側に厳しい裁判例が相次いでいます。今回の会社同様、就業規則等は整備されていたとしても、実態や運用の仕方によっては定額残業代そのものが否認されています。

 例えば、実際の残業代と定額残業代との差額を精算しようとしない姿勢を批判し、定額残業代とは認めない判断をしているケースがあります。つまり、単に定額残業代を盛り込んだ就業規則等を備えておくだけでは足りず、労働時間管理を適正に行うことが求められているのです。

 会社のルールと運用面がマッチしていることが大事です。

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