第14話 シチュエーションが大事な理由とは?

 「法律に違反している訳じゃないから、いいですよね」

 退職勧奨を行った社員から、あっせんの申立をされた会社の人事担当者が、最後に付け加えた一言です。あっせんというのは、会社と社員とのトラブルをあっせん人がとりなし、裁判をすることなく解決を図ろうとするものです。ただし、労働審判と違って、あっせんには法的拘束力がなく、参加するか、しないかは自由に決められます。つまり、会社はこの申立を蹴ることができます。

 冒頭の人事担当者の発言は、法違反がないから蹴っても問題ないかを確認したものです。確かに、退職勧奨に至った経緯や賃金の支払状況を聞く限りでは法違反はないように思えます。しかし、合意書への署名のさせ方が問題でした。

 申立書によると「人事担当者二人に囲まれて、威圧的な態度でペンを目の前に差し出されたから署名してしまった」とあります。これでは、脅迫ととられても仕方ありません。人事担当者から、よくよく状況を聞いてみると、その日の内に署名をさせたと言います。

 社員からすれば、突然、呼び出されて、人事担当者に囲まれ、退職を勧奨されるのは、いきなり頭をガツンと殴られたようなショックでしょう。たぶん、合意書の内容の説明も、ほとんど頭に残っていないハズです。そこへ半ば強制するように署名をさせています。社員の申立書を見ても、その一点のみを主張しています。こうなると、もはや感情論です。会社があっせんの申立を蹴った場合、社員は費用が掛かっても労働審判を使う可能性は十分にあります。あるいは、時が経てば社員の高ぶった感情が収まるかもしれません。

 社員がマイナスの感情を持たないように退職してもらう。実は、法理論とは別に、このことが大変大事だと考えています。

 このケースでは、人事担当者が二人で署名するよう詰め寄っていますが、そのことで社員は威圧されたと感じたことでしょう。このことから、なるべく社員に心理的な圧迫を加えないよう、話し合いをする時のシチュエーションも考えるべきです。例えば、十分な採光が確保できる部屋を使うようにします。退職を勧めるという、まさに気持ちが落ち込む話を切り出す訳ですから、暗く密閉された部屋で行うべきではありません。このような配慮をしたうえで、ドラスティックにやるというのが退職勧奨を成功させるポイントになります。

 社員のマイナスの感情が、トラブルの解決を長引かせるということは、よくあることです。時代は、フェアプレーを求めています。

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