第6話 賃金を上げれば仕事に向かうのか?

 「春闘でボーナスを満額回答しました」

 トヨタ自動車の社長が、首相に春闘の報告をしたことは記憶に新しいところです。政府はアベノミクスの成果を上げるべく賃上げに直接介入したところ、先の発言を得て、ますます鼻息が荒くなっています。春闘は4月に入り、中堅・中小企業を中心に妥結する企業が増えてきています。賃上げは、社員にとっては明るいニュースでも、会社にとっては経営の根幹にかかわること。賃金を上げたはいいが、それに伴う成果がでないことには利益が確保できません。そうなれば、雇用の維持もままならなくなります。

 では、賃金を上げることによって、仕事への動機づけができるのでしょうか?例えば、民間団体の調査で「平成24年度新入社員 働くことの意識調査」を紐解くと、新入社員の意識を知ることができます。この調査の中に、「あなたは、職場ではどんなときに一番”生きがい”を感じますか」という質問があります。上位には、「仕事がおもしろいと感じるとき」「自分の仕事を達成したとき」「自分が進歩向上していると感じるとき」「自分の仕事が重要だと認められたとき」「仕事に責任をもたされたとき」が並びます。この順位は、昭和44年の調査開始時より、ほとんど変わっていません。

 仕事への動機づけは、ハーズバーグが提唱した二要因理論で説明できます。二要因理論とは、人を仕事に向かわせる要因が「動機づけ要因」と「衛生要因」の異なる要因であるとする考え方です。先の調査の5項目が動機づけ要因で、直接的に働くことを動機づける役割を果たすものです。他方、仕事への意欲を低下させない予防衛生的な役割を持つけれど、働くことへの積極的な効果はないのが衛生要因です。

 ハーズバーグの調査結果によると、動機づけ要因は、「達成」「承認」「自分の仕事」「責任」「成長」などで、不満よりも満足が多いので満足要因。逆に、衛生要因は、「配置」「賃金」「対人関係」「評価」などで、満足よりも不満が多いので不満要因と言い換えることができます。例えば、ずっと賃金が上がらなければ不満が果てしなく広がっていくことは想像に難くないですよね。この場合でも、衛生要因である賃金は、不満が解消されると「不満がない」状態となりますが、満足要因にはなりません。

 不満がないことは、精神衛生上良いので、仕事への意欲を低下させない歯止めの役割を果たすということになります。つまり、満足と不満は相いれないものであって、満足の反対は不満ではなく「満足でない」状態ですし、不満の反対は「不満でない」という状態になります。したがって、不満要因である「賃金を上げること」のみで動機づけるのは難しく、仕事に向かう動機を満足要因である「達成」「承認」等に求める人がいるという認識に立たなければなりません。ただし、これにも例外があって、パートタイマー等の非正社員は、時給が高いか安いかで仕事を決めるくらいですから、賃金こそが動機づけ要因となります。

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