第5話 今後、有期契約が及ぼす影響とは?

 「採用の時に口頭でしっかり伝えました」

 パートタイマーなどの非正社員と契約書を交わしたかを尋ねると、このような答えが返ってくることがあります。確かに、契約は口頭だけでも成立します。しかし、労働条件が書面に明示されていないと、社員が働くうえでの権利や義務があやふやになってしまいます。会社にとっても、社員の義務が履行されない等の悪影響があります。したがって、法律が、労働契約の期間等、一定の事項について書面で明示することを義務づけているのです。

 そうは言っても、お互いが納得しているのだからいいではないか。なるほど、これは一理あります。契約は、合意だからです。平和な時は、これでもいいのかもしれません。でも、争われたら会社は殆どお手上げです。

 契約書がない、契約の有効期間が切れている、あるいは更新がずさんという場合に、会社が被る損害は計り知れません。特に、無期契約への転換ルールが現実となる5年後は。それほど、今回の改正労働契約法は、中小企業にとって破滅的な影響を及ぼします。

 無期契約への転換ルールとは、同一の会社で有期契約が通算で5年を超えて繰り返し更新された場合に無期契約へ転換するというものです。ただし、社員本人が無期契約へ転換する権利を行使すれば、ですが。通算されるのは、平成25年4月1日以後に開始する契約からですから、最も早い人で平成30年4月1日に転換する権利を取得できます。例えば、平成30年3月末日で契約が終了し、以後、更新を行わないことを社員に提示したとします。この時、社員はサインを拒否することができます。更新を繰り返せば、社員には「雇い続けてもらえる」という期待が芽生えます。会社は一方的に社員の期待を放棄させることはできません。社員本人が「うん」と言わない限り捨てられないのです。しかも、それが真意なのかどうかが問われます。契約は合意ですが、どういう意思を持って合意するかが大事です。

 仮に、5年を超えて更新しないという内容でサインをもらったとしましょう。だとしても、本当に納得してサインしたのか、解雇権濫用に当たらないのかを厳しく見られます。逆に言えば、サインがなければ話にならないということです。会社の本音は「いい人にずっと働いて欲しい」ということだと思います。では、そうでない人の更新を行わないためには、どうするか。一つの方法として、毎年、説明して、平成30年3月末日以後の更新を行わない旨のサインをもらうようにします。1回だけでなく、繰り返すことによって真意であることの主張は可能だと考えます。

 将来、無期契約の社員を抱える余力がなくなるかもしれないのであれば、手遅れにならないよう準備が必要です。

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