第12話 普段からやるべきトラブル回避施策とは?

 「でも、私にも生活があります。だから社長と争ってでもお金を取り返します」

 退職勧奨を行った社員に、社長が突き付けられた言葉です。

 会社は、社長と社員4人だけの小さな会社です。社長は、不況が続く中、自分の給与を下げながら何とかやり繰りしてきました。そんな折、経理担当のAさんが、取引先との間でトラブルを起こしました。取引先はカンカンです。彼女が問題を起こすのは、これが初めてではありません。これまでも、社長は彼女に対して、事あるごとに注意をしてきましたが、一向に態度を改めません。

 小さな会社ですから他の社員への影響も懸念されます。社長は、この事件をきっかけとして、彼女に辞めてもらい、新しく雇った方に経理を任せようと考えるようになりました。そこで、彼女に対して退職勧奨を行ったのです。

 退職勧奨を行うことは、会社の自由です。ただし、トラブルにならないよう、いくつか注意することがあります。その一つは、退職勧奨する社員に考える時間を与えるということです。呼びつけて、退職を勧奨するだけでも、社員の動揺はかなりのものです。なので、後々、社員から、無理やり退職させられたとか、退職書類への署名を強要させられた等の反論が出ないように気を配ることが大事です。

 他には、社長が金銭を出すつもりがあるかどうかです。金銭をもらえるとなれば、社員にとってもメリットがありますので合意しやすいです。加えて、金銭を提示して合意した場合、社員の意思表示は真意であるという裏付けにもなります。

 そこで、この会社でもAさんについて、最初の面談で金銭を提示し、2回目の面談までに考えていただくことになりました。Aさんは経理担当なので、会社の財務状況や社長の給与についても、よく把握していました。2回目の面談で「社長のお立場は十分理解しています。社長に恨みはありません」と前置きして、冒頭の言葉に続くのです。彼女は、当初、強行に退職条件を拒み続けました。ですが、社長の辛抱強い説得が功を奏し、彼女が退職を受け入れて円満に解決したのです。

 岡山弁護士会が、仲裁をしてきた方へ行った満足度調査があります。それによると「自分の言い分や気持ちを話せた」と回答した人は68.6%で、満足度が高くなる傾向にありました。やはり、労使が膝を詰めて話し合うことが大事ですね。もっとも、こうしたトラブルはコミュニケーションが不足することで生じますから、普段からコミュニケーションを大切にしたいものです。

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